"年金十二万円の老人の正体" 第1話
曜の午。
川崎のにはのが吹き、歩の端には桜のびらがく積もっていた。穏やかな差しの、みずほ第川崎支の窓には、平にもかかわらずい列ができていた。
配の客がかった。通帳を両で抱える者、封筒を胸に当てて待つ者、番号札を見つめながら静かに順番を待つ者。のは、どこにでもある午の景に見えた。
その空気を破ったのは、窓係の田康介の声だった。
「万の貧乏が、何しに来たんですか?」
たく、突き刺すような声だった。
田は歳。学をて目の若い員で、仕事はかったが、世欲がく、いの客を見す癖があった。特に齢者に対しては、面倒なだと決めつけるところがあった。
彼のにっていたのは、の老だった。
名は川誠。歳。
背はし曲がり、着ている青い作業着はところどころあせていた。ズボンにはさな継ぎ当てがあり、作業靴も履き込まれたものだった。には使い古された封筒を持っている。
そのには、息子から預かった委任状が入っていた。
誠は、張の息子・川雄に頼まれ、座の残確認に来ていた。窓につと、封筒を切そうに差しし、くをげた。
「息子の雄に頼まれまして。
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張なので、代わりに残確認をお願いしたいのです」
声は穏やかで、丁寧だった。柔らかい関弁には、くと接してきた者だけが持つ品があった。
だが、田にはそれが見えていなかった。
古い作業着。営宅の所。活者。
それだけで、彼は目のの老を「した客ではない」と決めつけていた。
田はで笑った。
「はいはい、また詐欺ですか。最いんですよね、こういうの」
誠は顔をげた。
「詐欺ではありません。息子から正式に頼まれております」
「じゃあ、本確認しますね」
田は面倒くさそうに類を受け取り、端末に報を入力した。数秒、画面に表示された所を見た瞬、彼の眉がきくいた。
「ちょっと待ってくださいよ」
指先で画面を叩きながら、田は誠を見た。
「この座、登録所が全然違いますけど」
誠の所は、川崎内の古い営宅だった。賃万円ほどの質素なまい。
方、息子名義の座に登録されていた所は、世田区の級宅にある戸建てだった。と建物をわせれば、億円はらないだろう。
その差を見た瞬、田は確信した。
これは詐欺だ、と。
誠は落ち着いた声で答えた。
「息子は結婚してを建てまして、私はで営宅におります」
そこには理由があった。
息子夫婦に迷惑をかけたくない。
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自分のことは自分でできるうちは、自分の力で暮らしたい。そうい、誠はあえて質素な活を選んでいた。
だが、田には理解できない。
「営宅で?」
その声にはらかな嫌が混じっていた。
「で、その息子さんって何をしてるんですか」
誠の表がしだけ柔らかくなった。
「建設会社を経営しております。おかげさまで、全国に支を持つようになりまして」
父親が息子を誇る、自然な声だった。
しかし田には、それすら虚言に聞こえた。
彼は隣の席にいた佐々主任を呼んだ。
「主任、またですよ」
佐々は歳の女性員だった。圧な態度でられ、配の客に対してたい対応を取ることがかった。
田は声で続けた。
「営宅の老の息子が、企業の社だそうです」
は顔を見わせ、クスクスと笑った。
その笑い声が、誠の胸に静かに刺さった。
佐々は、誠のにつと、類を奪うように取った。
「お客様。この方、本当に息子さんですか?」
誠は瞬、言葉を失った。
「どういうでしょうか」
「名を騙っているんじゃないですか、と聞いているんです」
内の空気がわずかにざわついた。
ろに並んでいた客たちが、何事かと線を向ける。誠はそれをじながらも、背筋を伸ばした。
「偽りではありません。息子が張にいてくれたものです」
佐々は委任状を広げた。そこには川雄の署名と実印、正式な印鑑証が添えられていた。