"病室の鍵を閉めた嫁" 第3話
続いて、それに答える美咲さんの返信メッセージの残像も見えてしまった。
『そうだね。あの古いも、いずれは全部拓哉のものになるしね』
私は何も言わず、持っていた湯呑みを静かにテーブルへ置いた。帰り、所のスーパーのでが突然止まった。夕方のを吹き抜けるはひどくたく、買い物袋を持つ私のは寒さでかじかんでいた。「使えるうちに使った方がいい」というその徹な言葉が、の奥にいつまでもに残り続けて消えなかった。
そして、産のが予定よりも幅にまってやってきた。ある夜の21過ぎ、私のスマートフォンに拓哉からいメッセージが届いた。
『美咲の状態がし悪くて、緊急で帝王切になるかもしれない』
私は驚いてすぐに拓哉の携帯に話をかけたが、波がつながらないのか、ついに応答はなかった。
翌朝、私は居てもってもいられず、拓哉たちがいる病院へと向かった。にした袋のには、私が3ヶのをかけて針針丁寧に縫いげた、真っな絹の産着が入っていた。襟元の縫い目がし曲がってしまい、夜に何度も糸を解いてはやり直した、い入れのある産着だ。そのには、退院の費用にと用した現入りの封筒、そして、あの夫のの属箱を忍ばせていた。
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なぜ箱まで持ってたのか、自分でもはっきりとは分からなかった。ただ、あのメッセージを見て以来、あの箱をに置いてくる気にはどうしてもなれなかったのだ。
産婦科病棟の廊には、独特のい消毒液の匂いが漂っていた。朝のまばゆいがきな窓から差し込み、きれいに磨かれたがくっている。くの部からは、まれたばかりの赤ちゃんの鳴き声がかすかに聞こえてきた。さく細く、それでも確かにこの世界にまれた、力い命の響きだった。
私は胸を鳴らせながら個のにち、優しくドアをノックした。すると、から紀子さんの警戒するような声がした。
「どちら様ですか?」 「野寺です。拓哉の母です」
私の返答の、数秒、部のが自然なほど静まり返った。そして、奥から美咲さんのたい声が聞こえたのだ。
「お母さん、すぐに鍵をかけて。お義母さんをに入れないで、赤ちゃんにはわせないで」
カチャリ、と目ので鍵が閉まる音がした。私はドアので、凍りついたようにけなくなった。
「美咲さん、しだけでいいの……。赤ちゃんの顔を、目見るだけでいいから……」
自分でも驚くほど、けないほどにい声がから漏れた。すると、ドアの向こうから紀子さんが遮るように言った。
「母子ともに非常に疲れていますから、今はご慮ください」
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「私は、この子の祖母です」
私が震える声で訴えると、今度は美咲さんが酷に言い放った。
「産の現に何も関係ないには、今は会いたくありません」
産に関係ない。その容赦ない言葉が、私の胸の奥底へとゆっくりとく沈んでいった。私は産婦科医として40以もの、誰よりも産の現の最線にってきた。充満する血の匂いも、母親の必な叫び声も、赤ちゃんが産声をげるまでのあの息が詰まる数秒の静寂も、すべてをり尽くしている。けれど、自分のたったの初孫の産においては、私は何の関係もない無用ななのだ、と言われたのだ。
からは息子の声も聞こえてきた。
「母さん、今はもう帰ってよ。で俺から連絡するからさ」
その拓哉の声には、私への申し訳なさよりも、そのをやり過ごしたいという面倒臭さがらかに混じっていた。部のでは、紀子さんとその夫の夫さんが、赤ちゃんをあやしている気配が伝わってきた。
「本当にいわね、美咲、よく頑張ったな」 「これからは族みんなでしっかり支えていくからね」
族みんな。その温かい言葉の輪のに、私の居所は最初から入っていなかったのだ。
私は歩く気力を失い、廊の端にあるいプラスチックの子に腰掛けた。袋を膝のにじっと置いていると、持ちの紐の跡が、私の指に赤く痛々しく残っていた。
涙はなかった。