"最後に座った妻" 第9話
何に対して謝るのか。
あまりにすぎて、言葉にならなかった。
「専業主婦は暇だ」と言ったこと。
事に文句を言ったこと。
ありがとうを言わなかったこと。
眠れない夜に気づかなかったこと。
湯で泣いている妻に気づかなかったこと。
35、妻を見ているつもりで、何も見ていなかったこと。
勝則はペンを置いた。
謝罪は、まだすぎた。
このまま送れば、自分が楽になるためのになってしまう。
そうった。
初めて、勝則は自分の言葉をみ込んだ。
子がをてから、半が経っていた。
さなアパートの窓から、のが差し込んでいた。6畳。初めて見たには、こんな狭い所でやっていけるだろうかとった。
だが今は、この広さがちょうどよかった。
部にあるものはなかった。さなテーブル、い棚、布団、気ケトル、カップ、数枚の皿。どれも子が自分で選んだものだった。
誰かの好みにわせたものではない。
誰かに文句を言われないために選んだものでもない。
自分が使いやすいとったから、そこにある。
それだけのことが、子にはしかった。
そのの午、子は商を1で歩いた。
急ぐ必がなかった。
誰かのために夕飯の材料を買わなければならない用事もない。特売のを気にする必もない。勝則の昼をどうするか考える必もない。
広告
ただ歩きたいから歩いている。
それだけのことが、半経った今でもし鮮だった。
園芸のでが止まった。
先に、さな鉢植えが並んでいた。パンジー、アイビー、ミント、ローズマリー。子はそのの1つをしばらく見つめた。
さなローズマリーの鉢だった。
細い葉が、のを受けて静かに揺れている。
誰かに頼まれたわけじゃない。
ただ、自分の窓辺に置いてみたいとった。
それだけの理由で買っていいものか。
瞬だけ迷った。
そして、買った。
帰り、子は袋のの鉢を見ながらふと気づいた。
35、自分だけのために何かを選んだことがほとんどなかった。
材を買うのは族のため。
を買うのも、誰かと会うため。
具を選ぶのも、族が使いやすいかどうか。
自分が欲しいから。
それだけの理由で何かをに入れたことが、本当になかった。
その気づきはしくはなかった。
い忘れていたものを、しずついしていくような静かな覚だった。
アパートに戻り、窓辺にローズマリーを置いた。
ここでいい。
そうった所に置いた。
誰かに確認しなくていい。
「そこは邪魔だ」と言われることもない。
コーヒーを入れ、そのに座った。窓のでは桜がもう散り始めていた。びらがにい、の端に淡く積もっている。
広告
子が失ったものは、35というだった。
妻として。
母として。
嫁として。
誰かのためにきてきた。
それが無駄だったとはわない。
理恵も健も、この族も、確かに子ので育ってきた。子がいたから守られた々もあった。
けれど、そので子自はどこにいたのだろう。
ずっと誰かの隣にいた。
でも、自分のそばにはいなかった。
そのことに気づいた、子は胸にを当てた。
痛みはあった。
でも、息はできた。
理恵はに1度、子のアパートを訪ねるようになっていた。
最初に来た、理恵はさな部を見てし驚いた顔をした。
「狭くない?」
子は笑った。
「最初はそうったけど、今はちょうどいいの」
理恵は部のを見回した。窓辺のローズマリーに気づき、づいた。
「これ、お母さんが買ったの?」
「そう」
「自分で?」
子はし笑った。
「自分で買う以にないでしょう」
理恵も笑った。
2で商を歩き、気になったに入った。特にのない話をした。理恵の職のこと、所の猫のこと、スーパーで見つけたい野菜のこと。
子は、声のトーンを気にせず話せることが、こんなにも楽なのかと何度もった。
話の途で遮られない。
「結論は何だ」と急かされない。
「そんなことどうでもいい」と笑われない。
ただ、話していい。
それだけで、の奥がほどけていくようだった。
ある、理恵は子の顔をじっと見た。
「お母さん、なんか顔が変わったね」
子はコーヒーを置いた。