"最後に座った妻" 第8話
し眉を寄せ、靴を脱いだ。
「お父さん、ご飯ちゃんとべてる?」
「べてる」
テーブルのには、コンビニ弁当の空き容器がなっていた。
理恵は黙ってそれを片付け始めた。勝則はその姿を見て、どこかほっとした自分に気づいた。
その瞬、理恵が振り返った。
「お父さん」
「何だ」
「私はお母さんじゃないよ」
勝則は言葉を失った。
理恵は空き容器を袋に入れながら続けた。
「片付けるのは今だけ。これからは自分でやって」
「分かってる」
「本当に?」
理恵の声は鋭くなかった。だからこそ、逃げがなかった。
「お母さんがいなくなって困ってるのは分かる。でも、それはお母さんが悪いんじゃない。お父さんが35、自分の活を見なかったからだよ」
勝則は子に座ったまま、線を落とした。
理恵は台所をしえると、バッグから1枚のをした。
「これはの事支援サービスの案内。これは齢者向けの料理教。これはゴミしのカレンダー。お母さんに頼るんじゃなくて、自分で覚えて」
勝則はを見た。
文字が滲んで見えた。
「お母さんは、どこにいる」
理恵はすぐには答えなかった。
「全なところ」
「会えないのか」
「今は会わない方がいい」
「俺は謝りたい」
理恵は父を見た。
「謝るのは、お父さんが本当に分かってからにして」
勝則は返事ができなかった。
理恵が帰った、はまた静かになった。
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勝則はテーブルのに置かれた事支援サービスの案内を見つめた。
子がいなくなってから、毎が便だった。
だが本当の獄は、便さではなかった。
何をしても、子がいた痕跡にぶつかることだった。
畳まれたタオルの並べ方。
調料の置き所。
玄関の瓶。
洗面所のさな籠。
ののすべてが、子のでえられていた。
そのを、勝則は見ようとしてこなかった。
弁護士からの類を、勝則は何も裏返したままにしていた。
見るのが怖かった。
それをけば、子が本当に戻らないという事実を認めることになる気がした。
しかし、封筒はそこにある。
朝起きても、昼になっても、夜になっても、テーブルの端に置かれたまま、勝則を見ているようだった。
ある、兄が再び訪ねてきた。
「まだ読んでないのか」
勝則は黙っていた。
兄はため息をつき、封筒をに取った。
「逃げても状況は変わらないぞ」
勝則は渋々、類をいた。
婚協議。
財産分与。
分割。
居に関する協議。
そこには、子がこれから自分のを切りそうとしていることが、淡々とかれていた。
勝則はを持つに力を入れた。
「35も緒にいたんだぞ」
ようやくた声は、かすれていた。
兄は静かに答えた。
「だから限界だったんだろう」
勝則は顔をげた。
「おまでそう言うのか」
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兄はしばらく黙っていたが、やがて言った。
「子さんは、よくやってくれていたとうぞ」
「分かってる」
「本当に分かってるなら、もっとに言ってやればよかった」
その言葉は、勝則の胸をく刺した。
分かっている。
今なら分かる。
だが、分かったにはもう遅かった。
勝則は類を読みながら、35をい返した。
義母が倒れた、子がどれほど疲れていたか。
義父の葬儀で、子がどれほどいていたか。
子供たちの学、就職、結婚。そのすべての裏で、子がどれだけの配をしていたか。
自分はそのにいたこともあった。
だが、見ていなかった。
子がいていることを、の空気のようにじていた。あって当然、なくなって初めて気づくもの。
それがどれほど残酷なことだったか、勝則はようやく理解し始めていた。
数、勝則は弁護士に話をした。
声はかった。
「妻と話したいんですが」
相は丁寧に答えた。
「現点では、直接の連絡は控えてください。必なことは代理を通してください」
「謝りたいだけなんです」
「お気持ちは分かります。ただ、奥様は現、直接連絡を望んでいません」
話を切った、勝則は受話器を持ったまましばらくっていた。
望んでいない。
子が、自分との直接の会話を望んでいない。
その事実は、予以にかった。
夜、勝則はとペンをした。
子へをこうとった。
「すまなかった」
最初にそういた。
その先が続かなかった。