"最後に座った妻" 第4話
そのの午、子は押し入れのノートをまたいた。
ペンを持ち、1だけいた。
「私は今、幸せなんだろうか。」
き終えてから、がさく震えていることに気づいた。
その1をいてから、子はノートを閉じた。
読み返す気にはなれなかった。ただいた。それだけで胸のどこかにさな穴がいたような、妙な覚が残った。
その夜も眠れなかった。
布団ので目をけたまま、子は昔のことを考えていた。
理恵がまだ学だった頃、義母が脳梗塞で倒れた。勝則は当、州に単赴任していた。子は1で義母の病院へ通いながら、子供たちの弁当を作り、学の事にき、を回し続けた。
勝則に話をしても、「そっちは頼む」と言われるだけだった。
求めても来られないに頼っても仕方がない。
そう割り切った。
割り切ることに慣れて、いつのにか「1でやる」が子の標準になった。
義父の葬儀を取り仕切ったのも子だった。親戚への連絡、寺への相談、典返し、料理の配。勝則は喪主として座っていたが、細かな段取りをしたのは子だった。
理恵が受験で追い詰められた夜、隣に座っていたのも子だった。理恵が泣きながら「もう無理」と言った、温かいお茶を入れて、背をさすった。
勝則はどちらのも、そこにはいなかった。
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仕事が忙しい。
男はで戦っている。
のことはおに任せた。
その言葉を盾に、勝則はいつも側にいた。
子は内側に残り、すべてを受け止めた。
いつか、自分のが来るとっていた。
子供たちが独して、介護が終わって、夫が定になったら、しは穏やかに暮らせるのではないか。自分の番が来るのではないか。
でも、現実はそうではなかった。
勝則がにいるようになってから、子の1はさらに細かく縛られた。朝、昼、夜、3が必になった。かけようとすると、「どこへくんだ」と聞かれる。買い物のがいと、「何をそんなに見るものがあるんだ」と笑われる。
悪がないのは分かっている。
ただ、そこにいるだけ。
ただ、ったことをにしているだけ。
でも、その「ただそこにいるだけ」が、子の1をじわじわと塗り替えていく。
鳴られるなら言い返せる。
をげられるなら逃げる理由になる。
けれど勝則は鳴らない。笑いながら言う。軽い調子で刺してくる。
だから、自分が傷ついていると声にす根拠がどこにも見つからなかった。
理恵の「無理しないでね」という言葉が、何経ってもかられなかった。
ある朝、子は1でをた。
勝則には「買い物にく」とだけ言った。
向かったのは、の女性相談窓だった。
建物のに着くと、が止まった。
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自ドアの向こうには受付が見える。子はバッグの持ちを握りしめ、扉ので3回呼吸した。
こんなところに来るほどのことなのだろうか。
自分はげさなのではないか。
ただ夫婦のよくあることなのではないか。
そんな言葉がので何度も浮かんだ。
それでも、理恵の声が背を押した。
無理しないでね。
子は扉をくぐった。
相談員は穏やかな顔で迎えてくれた。さな個に案内され、温かいお茶をされた。子は湯みにを添えたまま、しばらくうまく話せなかった。
「鳴られているわけじゃないんです」
最初にた言葉は、それだった。
「暴力があるわけでもありません。活費を渡されないわけでもないんです。でも……」
そこで声が詰まった。
相談員は急かさなかった。
子はゆっくり続けた。
「毎晩眠れなくて、湯で泣いているんです。でも、何がつらいのか、自分でもうまく言えなくて」
相談員は静かに頷いた。
「奥さん、それはモラルハラスメントと呼ばれる状態にいといます」
子はその言葉を、のでゆっくり繰り返した。
モラルハラスメント。
35、名のなかった痛みに、名がついた。
痛みに名がつくと、それまでぼんやりしていたものが、急に輪郭を持って見えてくる。
自分が傷ついているのかどうかさえ分からないままきてきた。
でも今、この瞬、確かに傷ついていたのだと分かった。
相談員は言った。
「すぐに何かを決める必はありません。