"最後に座った妻" 第2話
本当に丈夫かどうかは、いつも回しだった。
その言葉は、いつも笑顔と緒にやってきた。
「専業主婦って気楽でいいよな。毎好きなことできて」
勝則はソファにく沈み、テレビを見たまま言った。子の方を向いてすらいない。ニュース番組の画面を眺めながら、ったことがそのままからこぼれたという調子だった。
子は台所で夕飯のごしらえをしていた。
まな板のには、参が並んでいた。包丁を握ったは止まらなかった。
「そうね」
く答える。
鳴られているわけではない。
責められているわけでもない。
だから、言い返す理由がどこにも見当たらない。
勝則の声は続いた。
「俺なんて35働きっぱなしだったんだぞ。おはにいられてよかったな」
子は参を細く切りながら、く笑った。
「分かってるわよ」
その笑顔が、どれだけ消耗するものなのか。
勝則には見えていない。
笑って流すたびに、子のの何かがしずつ削られていく。それでも笑うのは、笑わなかったに何が起きるかを、35かけて学んでしまったからだった。
嫌になる。
黙り込まれる。
ため息をつかれる。
「冗談も通じないのか」と言われる。
そうなるくらいなら、笑った方がい。
「はいはい」と流した方が、の空気は乱れない。
子はずっとそうしてきた。
夕飯はいつも通りに並んだ。
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焼き魚、煮物、噌汁、漬物。勝則は席につくなり、箸を持った。子は最の皿を卓に置き、自分の子に座る。
勝則は魚をべて、で笑った。
「これ、ちょっと焼きすぎじゃないか」
「そう?」
「まあ、えないほどじゃないけどな」
その「えないほどじゃない」という言い方に、子はさく息を吸った。
責めているわけではないのだろう。
ただったことを言っただけなのだろう。
けれど、言葉はいつも子のの柔らかい所を正確に押した。
勝則は晩酌をしながら続けた。
「しかし、毎にいるんだから、もうし変わったもん作れないのか?」
子は噌汁のお椀を持ったまま、線を落とした。
「考えておくわ」
「別にってるわけじゃないぞ。ただ言ってるだけだ」
勝則は笑った。
その笑顔が嫌だった。
鳴られるより、かえって痛かった。
鳴られれば、傷ついたと言える。ひどいと言える。けれど、笑いながら言われる言葉は、どこにも訴えようがない。相は「冗談だ」と言い、自分だけが傷ついている。
子はその構図のに、35閉じ込められてきた。
その夜、呂に入っただった。
湯に浸かり、井を見げていた。何を考えていたわけでもない。ただ、体を温めているだけだった。
ふと、頬に温かいものが流れた。
涙だった。
子は驚いて、自分の頬に触れた。
泣いている理由が分からなかった。
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しいのか。
っているのか。
疲れているだけなのか。
自分でも分からないまま、子は湯のでゆっくり息を吐いた。声をせば、自分が崩れてしまいそうだった。
翌、子は友の節子と駅で待ちわせをした。
に1度か2度、2でお茶をむ。それが子にとって、数ない自分だけのだった。
喫茶の窓際の席に座ると、節子はすぐに子の顔を見た。
「ねえ、子さん。最、なんだか元気なさそうだけど、丈夫?」
子はコーヒーカップを両で包み、反射に笑った。
「そんなことないわよ」
節子はし眉を寄せた。
「無理してない?」
「してないわ」
「旦さん、ずっとにいるんでしょう」
「まあね」
本当のことを話せなかった。
鳴られているわけではない。
をげられるわけでもない。
活費を入れないわけでもない。
でも毎晩、湯で泣いている。
そんなことを、どう説すればいいのか分からなかった。
節子はしばらく子を見つめていたが、それ以は踏み込まなかった。ただ帰り際に、子のを軽く握った。
「何かあったら、いつでも言ってね」
子は頷いた。
「ありがとう」
帰り、子はさなショーウィンドウのでを止めた。
ガラスに映った自分の顔を見た。
65歳。
30歳のにをしまってから、35分のが刻まれた顔だった。
に帰ると、勝則はソファで居眠りをしていた。
テレビはついたまま、リモコンはに落ちていた。テーブルには空の湯みと菓子の袋が残されている。