"退職金三千万円と残高三千円の通帳" 第5話
けれど、それ以に妙な静けさがありました。
リビングへ向かうと、カーテン越しの朝のがテーブルをく照らしていました。
その央に、茶い封筒が置かれていました。
昨、義母が持ってきたものです。
封筒をけると、婚届が入っていました。正隆の欄には、すでに署名と印鑑があります。私の欄は空のままです。
横にはつ折りのが1枚置いてありました。
正隆の字で、こうかれていました。
「退職は慰謝料代わりにもらう。俺は本当に俺を必としてくれるときる。母さんも、おには妻としての責任がりなかったと言っている」
私はそのをしばらく見つめました。
本当に俺を必としてくれる。
母さんも。
40連れ添った相が最に残した言葉のに、私への労わりは1つもありませんでした。
けれど、議と涙はませんでした。
私はちがり、リビングの引きしをけました。
空でした。
古い通帳、古い印鑑、古いキャッシュカード。すべてなくなっていました。
「持っていった」
私は引きしを閉めました。
それから、スマートフォンを取りしました。婚届、置き、空の引きし、1つずつ写真を撮ります。付と刻が残るように、角度を変えて何枚も撮りました。
次に、涼介へ話をしました。
「母さん、朝くにどうした?」
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「涼介、お父さんが通帳を持ってていったわ。婚届と置きを残して」
話の向こうで、息をむ音がしました。
「今からく。父さんから話が来ても、く話さないで。必なことだけ答えて。弁護士に任せるって言って」
「分かったわ」
青弁護士にも、すぐに連絡しました。
状況をくまとめて送ります。
その、私はお茶を1杯入れました。
は揺したほど順番を失います。
写真を撮る。類を保管する。涼介に連絡する。弁護士に連絡する。
順番を守れば、なくとも自分を見失わずに済みます。
正隆から話が来たのは、そのの午でした。
私は録音アプリを起してから通話ボタンを押しました。
「もしもし」
次の瞬、鳴り声がんできました。
「どういうことだ?通帳に3000円しか入ってないぞ!」
来ました。
ようやく、自分で持ちした通帳のを見たのです。
「盗んだ通帳の残を、私に確認するの?」
話の向こうが、瞬静まりました。
「盗んだんじゃない。夫婦のを確認しただけだ」
「婚届を置いてていったが、夫婦を名乗るの?」
また沈黙。
「婚届はまだしてないだろう。形だけだ」
「形だけの婚届と緒に、私の通帳と印鑑とキャッシュカードを持ちしたのね」
「おが俺を騙したんだろう!」
「騙してなどいません。あなたが勝に持っていっただけです」
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「3000万円はどこにある?」
「私の座にあります」
「夫婦のだろう!」
「あなたの置きには、退職は慰謝料代わりにもらうといてありました。夫婦のなのか、慰謝料代わりにもらうものなのか、どちらですか?」
正隆の息が荒くなりました。
答えられないのです。
そのそので自分に都のいい言葉を選んできたは、言葉を並べられると急にけなくなります。
「母さんもってるぞ」
「お母さんもご緒なんですね」
「ああ。おのやり方は卑怯だと言っている」
「では、お母さんにも弁護士から説してもらいます」
「弁護士?」
「すでに相談済みです。婚届、置き、通帳と印鑑を持ちされたこと。お母さんが“嫁のは佐伯のもの”とおっしゃった録音。それから昨夜の会話も保してあります」
「録音?お、録音してたのか?」
「必だとったので」
「卑怯だぞ!」
「通帳を持ちすよりは、ずっと正当です」
話の向こうで、何かが倒れる音がしました。
私は静かに続けました。
「今は青弁護士を通してください」
「待て、玲子。今夜に戻る」
「お断りします。婚届を置いて、私の通帳と印鑑を持ってていったをに入れるつもりはありません」
「俺のでもあるだろう!」
「今は弁護士を通してください」
そう言って、私は通話を切りました。
録音は7分ほどでした。
通帳を持ちしたこと。
残を確認したこと。
3000万円を求めていたこと。
婚届を形だけだと言ったこと。
必な言葉は、本のからました。