"退職金三千万円と残高三千円の通帳" 第2話
けれど、持ちした事実は残ります。
「通帳の所は、ちゃんと教えてあげる」
私はさく呟きました。
ただし、あなたたちがっている通帳ではないけれど。
夕の支度を始めようとした、スマートフォンが鳴りました。
画面に表示された名は、富。義母でした。
私は呼吸を1つして、録音アプリを起しました。赤い丸が静かに点滅を始めます。それから通話ボタンを押しました。
「はい、玲子です」
「玲子さん、聞いたわよ。今でお仕事が終わりだったんですってね」
声だけ聞けば、いつも通りでした。甘く、ゆっくりとして、何もらないが聞けば優しそうにえる声です。
けれど私はっていました。
この声は、を気遣うの声ではありません。相の持ち物を確かめるの声です。
「はい。今が最終でした」
「43も働いたんですもの。退職、ずいぶんたでしょう」
速でした。
お疲れ様より先に、退職。
親子でよく似ています。妙なところだけ、精度く似ているのです。
「正隆さんから聞かれたんですか?」
「あら、夫婦のことを母親がって何が悪いの?3000万円くらいですって?すごいわね」
私は台所の子に腰をろしました。
録音は回っています。
ここでってはいけない。こちらがになれば、相はすぐに被害者の顔をします。
「お母さん、退職は私が43働いた分のおです」
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「そうよ。でもね、玲子さん。あなた、嫁でしょう?」
「嫁です」
「嫁のは、佐伯のものよ」
来ました。
あまりにもはっきりした言葉でした。
ので、私はその文に赤線を引きました。
「もう度よろしいですか?」
「何を?」
「嫁のは、佐伯のもの。そうおっしゃいましたね」
「ええ。何度でも言うわよ。嫁のはのもの。昔からそういうものなの」
私はスマートフォンを握るに力を入れないようにしました。
りはありました。けれど、そのりよりも今は、ありがたさにいものがありました。
ここまで綺麗に録音に残してくれるとはわなかったからです。
「私は会社で働いてきました。佐伯のために雇われていたわけではありません」
「あら、が達者になったわね」
「事実を話しているだけです」
「あなたがで働けたのは、正隆がいたからでしょう。正隆がのことをしてくれたから、あなたは会社に通えたのよ」
のことをしてくれた。
その言葉を聞いた瞬、まな板のに置いた包丁の刃が目に入りました。
朝く起きて弁当を作ったのは誰だったのでしょうか。息子の涼介を保育園へ送り迎えしたのは誰だったのでしょうか。会社から帰って洗濯を回し、翌朝の噌汁の具を刻んでいたのは誰だったのでしょうか。
けれど、今は言い返さない。
必なのは反論ではありません。
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相にもっと喋らせることでした。
「お母さん、今夜こちらに来られると聞きました」
「ええ。退職のお祝いにくわ。それと、これからの話もしないといけないでしょう」
「これからの話とは?」
「決まっているじゃないの。退職の管理の話よ」
私は黙りました。
義母は私の沈黙を迷いだとったのでしょう。し声をくして続けました。
「通帳と印鑑は正隆に預けなさい」
「正隆さんに?」
「ええ。男が管理した方がはうまくいくの。女がを握ると、がぎくしゃくするのよ」
「私はそうはいません」
「うわないの話じゃないの。の決まりよ。佐伯の決まり」
「私の退職を、正隆さんとお母さんで確認するということですか?」
「当たりでしょ。私だって佐伯の者ですからね」
私は静かに息を吐きました。
必な言葉は揃いました。
嫁のはのもの。
通帳、印鑑、キャッシュカードをせ。
隠したら考えがある。
私は録音を保し、台所へ戻りました。
夕の支度はいつも通りにめました。参を切り、噌汁の鍋にを入れ、魚を焼きます。
いつも通りに見えることが、今は番事でした。
リビングの話台の引きしをけ、そこに古い通帳、古い印鑑、古いキャッシュカードを入れました。
残3187円の座。
退職とは何の関係もない座です。
見つけやすいように、しだけに置きました。
まるで餌を置くみたいだといました。
けれど、これは罠ではありません。