"奥日光の白い菊" 第7話
美紀も、弓も、絵里も……助けられなかった」
彩子は両親に頼み、自分のことをすべて秘密にしてもらった。名を変え、別の町へ移り、4、誰にも話さずにきてきた。
「なぜ今、話しに来たんですか」
刑事が尋ねると、彩子は涙を拭いた。
「今が、4目のだからです。毎、あの所に菊を供えに来ていました。でも、もう話さなければいけないといました。刑事さんにだけでも、っていてほしかったんです」
「田武はどうなったんですか」
「分かりません」
彩子はさく首を振った。
「んだのか、きて逃げたのか、何も分かりません」
刑事はしばらく黙った。
そして、静かに尋ねた。
「公式の調を作成してもいいですか」
彩子の顔が張った。
「だめです」
「しかし、真実を残すには必です」
「まだ怖いんです」
彩子は震える声で言った。
「男がまた探しに来るかもしれない。それに、私は友達を置いて逃げた。これ以、にられるのが怖いんです」
刑事は言葉を失った。
彩子はちがった。
「話すことは全部話しました。帰ります」
「連絡先を教えていただけませんか」
彩子は首を横に振った。
「2度と連絡しないでください」
彼女は取調をた。
刑事は、引き止めることができなかった。
窓の向こうで、彩子が駐へ歩いていくのが見えた。彼女はに乗り込み、エンジンをかける。
広告
はゆっくりとざかり、界から消えた。
刑事は机に座り、を抱えた。
真実は聞いた。
だが録音はない。
調もない。
鈴彩子の証言だけでは、事件を再捜査することは難しかった。そして彩子自が、公式の供述を拒んだ。
事件は、再び閉じられた。
20251022。
事件から30が経っていた。
奥の渓は、今も葉で赤く染まっていた。観客たちはので写真を撮り、流れるの音にを澄ませていた。
の欄干には、い菊のが1輪結ばれていた。
毎この期になると、誰かがしいを供えていく。観客たちはそのを見て、議そうに首をかしげる。誰のためのなのか、何をするのか、ほとんどのはらない。
渓のは今も清らかに流れている。
岩はそのまま残っている。
ただ、だけが流れた。
19951021、4の女子は笑いながら奥へ向かった。
佐藤美紀、田弓、鈴彩子、渡辺絵里。
そのうち1は、4に戻ってきた。
沈黙のでき続けた。
残りの3は、そのを境に戻らなかった。
田武は最まで捕まらなかった。でんだのか、どこかへ逃げたのか、それをる者はいない。
刑事は、退職するまでその事件ファイルを放さなかったという。机の引きしの奥にしまい、折取りしては、写真のの4を見つめた。
禅寺で肩を組む4。
民宿の庭で犬と笑う4。
竜ノ滝の欄干ので、最に写った4。
その隅には、ぼやけた男の姿がある。
あの男が、彼女たちの背にいた。
そして、そのが彼女たちのを奪った。
真実は、にすぎる所に埋もれる。
2度とを浴びないこともある。
けれど、誰かは覚えている。
誰かが毎、を供える。
渓の音に混じって、い菊が静かに揺れている。
それは、消えた名を消さないための、さな記憶だった。
― 完 ―