"水亀の下に消えた嫁" 第2話
担当した伊藤啓司刑事は、その写真を受け取り、しばらく見つめた。
「最に奥さんを見たのは、いつですか」
伊藤刑事が尋ねると、広さんは膝ので両を握りしめた。
「私は張にていました。母が……母が、のの夜にてったと言っていました」
伊藤刑事はペンを止めた。
「奥さんの荷物は?」
「コートも財布も靴も、にありました」
部の空気がしくなった。
妊娠の女性が、財布も持たず、靴も履かずにをる。しかも夫がの夜に。
普通に考えれば自然だった。
しかし当は、防犯カメラもなく、携帯話も般ではなかった。がどこを歩き、誰と会い、どこへ消えたのかを追うには、所を軒ずつ歩いて聞き込むしかなかった。
伊藤刑事は届に目を落としながら、さらに尋ねた。
「夫婦で争いはありませんでしたか」
広さんはすぐに首を振った。
「ありません。なくとも、私はそうっています」
その答えに、伊藤刑事はさく眉を寄せた。
夫がらないところで、嫁と姑のに何かが起きていることは珍しくない。特に同居している、からは見えない圧力が積みなることもある。
伊藤刑事はまず、さゆりさんの実へ向かった。
実母の鈴よしこさんは、娘が消えたと聞いた瞬、玄関先で膝をつきそうになった。伊藤刑事が支えると、よしこさんは震えるで元を押さえた。
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「うちの娘は、自分からてくような子ではありません」
居に通されても、よしこさんの声は震えていた。
「最に話したのは49です。声が沈んでいました。お義母さんとの関係がし辛いって……でも、赤ちゃんもいるから頑張って耐えるって言っていました」
伊藤刑事は帳にその言葉をき留めた。
赤ちゃん。
妊娠。
姑との関係。
それらの言葉が、ので静かに並んだ。
よしこさんは涙を拭きながら、刑事をまっすぐ見た。
「娘は、絶対になんかしません。何かあったんです」
その必な目を見ながらも、伊藤刑事はまだ確信を持てなかった。
当、既婚女性の失踪は、庭内のや精神な疲れによるとして処理されることもなくなかった。嫁姑問題、妊娠の、夫の。そうした素は、に事件性をめる理由として使われてしまう。
だが、さゆりさんの財布と靴がに残っていた事実だけは、伊藤刑事のかられなかった。
その違を胸に、彼は斉藤へ向かった。
斉藤ふみさんに初めて会った、伊藤刑事は奇妙な印象を受けた。
玄関をけたふみさんは、泣き崩れるでもなく、取り乱すでもなく、きちんと髪をえ、いの割烹着を着ていた。庭先には掃き清められた跡があり、古い亀の横には濡れたが黒くっていた。
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「お忙しいところ、すみません」
伊藤刑事が名刺を差しすと、ふみさんは丁寧にをげた。
「ご苦労さまです」
声は落ち着いていた。落ち着きすぎていた。
居に通されると、ふみさんは座布団をえ、茶をした。その作は無駄がなく、まるで来客を迎える準備をからしていたかのようだった。
伊藤刑事は湯呑みにをつけず、静かに尋ねた。
「411の夜、さゆりさんはどのようにてったのですか」
ふみさんはし線をげた。
「夕をべた、急に荷物をまとめているようでした。何か聞いても返事をしませんでした。そのままてきました」
「止めなかったのですか」
「止めようとしました。でも、もうてってしまって」
伊藤刑事は帳にき込みながら、ふみさんの顔を観察した。涙はない。揺もない。むしろ、話す順番をあらかじめ決めていたように滑らかだった。
「コートと財布がに残っていたそうですね」
その質問をした瞬、ふみさんは度だけ瞬きをした。
「それは、私にも分かりません。あの子は、もともとしがおかしいところがありましたから」
伊藤刑事はペンを止めた。
「おかしい、とは?」
ふみさんはく息を吐いた。
「気にしすぎるというか、被害妄がいというか。こちらが普通に言ったことを悪く受け取るんです」
その言葉は、これまで聞いたさゆりさんの物像とは違っていた。
実母のよしこさんは「真面目でい子」