"次の駅で降りなさい" 第2話
実の固定資産税は、毎兄が払っているはずだった。母も話でそう言っていた。「健がちゃんとやってくれているから」と。
なぜ誠がて替えるのか。
なぜ兄ではなく、兄嫁に直接送するのか。
なぜ見られて焦ったのか。
タクシーがゆっくりと実へづいていく。
くに見慣れた根が見えた。瓦のは、父がきていた頃よりし褪せている。庭の松の枝も、昔より形が崩れていた。
タクシーが止まり、誠が先にりた。
私はし遅れてにた。元がふらついた。
玄関の引き戸をけると、煮物の匂いが廊に流れてきた。里芋と鶏肉。母が好きな献だった。
「お疲れ様です。待っていましたよ」
兄嫁の美が、エプロン姿で廊にてきた。髪はきちんとまとめられ、頬にはし汗がっている。
るい声だった。
このに入ると、美の声が番最初に聞こえる。
いつからそうなったのだろう。
「咲さん、荷物置いてください。客、使っていいですから」
誠が先に歩き、私はそのを追った。
客の障子をけると、畳の匂いがした。布団はもう敷いてある。窓はしいていて、庭のが入っていた。
「俺、お母さんに挨拶してくるね」
誠の音がざかる。
私はになった。
その、畳のに置いた誠のバッグから、A4サイズの茶封筒がし見えていることに気づいた。
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幹線をりる、「荷物がいから持ってて」と渡されたバッグだった。
封筒には宛名がない。
老婦の言葉が、ので響いた。
――調べてください。すぐに。
私は障子のを確認した。
廊に音はない。
震える指で封筒をけた。
封筒のには、枚の類が入っていた。
枚目の部には、太い文字でこう印字されていた。
売買予約契約。
その文字だけで、胸の奥がざわついた。
目を細めて読みめる。
売主、野静子。
買主、限会社ティアラ企画。
売買予約額、千百万円。
そのに記載されていた所は、私の実の所だった。
今、私が座っているこのの所。
が震え、の端がかさかさと鳴った。
次のページをめくる。
そこには会の欄があった。
会、原田誠。
見慣れた夫の署名。
そして認印。
百円ショップで買ったと言っていた、あのい印鑑だった。
それが、千百万円の契約に押されていた。
私の夫が、この契約に関わっている。
っていて黙っていた。
息が浅くなった。部の酸素が急にくなったようだった。
枚目には、委任状とかれていた。
委任者、野静子。
母の名が印字され、そのには実印が押されていた。父と母がで作ったと聞いたことのある、あの実印だった。
けれど委任内容の欄は空だった。
母の名と実印だけがある。
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背にたいものがった。
このがあれば、産の売買でも、名義変更でも、抵当権の設定でも、何でもできてしまう。
母はこれに何がかれるか、っているのだろうか。
「理のため」と言われて、印鑑を押しただけではないのか。
枚目は、産売買に関する覚だった。
登記完期限、令。
今は。
。
老婦が言っていた通りだった。
私は急いで類を封筒に戻し、バッグの底へ押し込んだ。指に力が入らず、何度もが引っかかった。
「咲さん、お茶入りましたよ」
廊から美の声がした。
るく、何のためらいもない声。
このを売ろうとしているの声とはえなかった。
「今きます」
声が裏返りそうになった。
鏡を見ると、顔が青い。唇のもなかった。
呼吸をして障子をける。
居には、母と兄と美、誠が座っていた。テーブルには湯みがつ並んでいる。菓子皿には、父が好きだった栗饅が置かれていた。
私は誠の隣に座った。
誠は私を見なかった。テレビのほうへ線を向けたまま、兄と気の話をしている。
「はれるそうですね」
「墓参りにはちょうどいいな」
何でもない会話。
その穏やかな卓の裏で、千百万円の契約と、母の委任状がいていた。
母が煮物を取り分けてくれた。
「、お墓参りくからね。
午がいいよね」
私は箸をかした。
でも何をべているのか分からなかった。
のでは、類の文字だけが何度も回っていた。