"更地にした二千万の家" 第1話
「むのは、私の両親ですよ」
嫁のマリのたい声が、築のリビングに響いた。
私はそので息をすることすら忘れた。目のには息子の幸と、その妻マリが並んで座っている。い壁。品の。きな窓から差し込む夕方の。どれも、私が老を過ごすはずだったの景だった。
「マリさん……今、何て言ったの?」
私の声は震えていた。
マリは眉ひとつかさず、同じ言葉を繰り返した。
「ですから、このにむのは私の両親です。来週、引っ越してきます」
私はわずテーブルにをついた。
「でも、このは同居の約束で……私が千万円もしたのよ」
千万円。
夫と続けてきたパンの利益。夫の保険。老のためにしずつ貯めてきた全財産だった。
幸は目をそらした。
「母さんには申し訳ないけど、状況が変わったんだ」
「状況?」
「マリの両親の方が、子育ての伝いができるから」
私は息子の顔を見つめた。
「私だって孫の面倒は見られるわ」
すると幸は、言いにくそうに唇をかした。
「でも……マリの両親は元教師だし、教育にも詳しいんだ。それに、正直……パンっていうのも体裁が悪いんだよ」
その言で、胸の奥が凍った。
夫がくなってからもで守ってきた。息子を学までかせた。そのを、息子は恥だと言ったのだ。
「じゃあ、私はどうすればいいの?」
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マリはく笑った。
「アパートでも借りたらどうですか。まだパンの収入もあるでしょうし」
「でも、約束が……」
「約束ですよね。契約があるわけじゃありませんし」
その瞬、私はようやく理解した。
最初から、私は利用されていただけだった。
同居のためではない。千万円が欲しかっただけなのだ。
私、原かずよは歳になる。
、夫の健が目を輝かせて言った。
「かずよ、俺たちのを持とう」
さな舗を借り、古のオーブンを買い、で始めたのが原ベーカリーだった。
朝に起き、健がを仕込み、私が成形する。焼きたてのパンのりがいっぱいに広がる頃、常連客が並び始めた。
「原さんのパンはがこもってるね」
その言葉が、何よりの報酬だった。
息子の幸も、の隅で宿題をしながら育った。パンのをおやつにべ、眠そうな顔で「母さん、今もいね」と笑っていた。
けれど、健は病に倒れた。
病で握った夫のからは、まだ麦の匂いがした。
「かずよ……息子をよろしく頼む」
それが最の言葉だった。
葬儀のあと、私は夫のを守ると決めた。代半の体に朝起きはこたえたが、常連客が待っている。健がしたを簡単に閉めることはできなかった。
そんなある、幸夫婦がを訪ねてきた。
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「母さん、提案があるんだ」
幸はし緊張した顔で言った。
「緒にめるを建てよう。子供もまれたし、母さんにも伝ってほしい」
マリも隣で丁寧にをげた。
「でも資がりなくて……お母さん、援助していただけませんか」
息子族が私との同居を望んでくれている。
その事実だけで、胸がいっぱいになった。
「いいわよ。お父さんの保険と貯で千万円あるから、全部使って」
幸の顔がるくなった。
「本当に? ありがとう、母さん」
私はので仏壇の健に語りかけた。
健さん、これで寂しくなくなるわね。
けれど、そのはまだらなかった。
それが裏切りの始まりだったことを。
築事がむにつれ、私はしずつ違を覚えるようになった。
ある、同居の準備について幸に話をした。
「いつからめるのかしら」
話の向こうで幸が言葉を濁した。
「あ、それなんだけど……ちょっと待ってもらえる?」
数、幸夫婦がに来た。孫は連れていない。
幸は内を見回しながら言った。
「母さん、パンは続けるつもり?」
「もちろんよ。お客様も待ってるし」
するとマリがを挟んだ。
「でも、築のにむなら考えてもらわないと。パンの匂いって結構きついんですよね」
私は驚いた。
「気をつけるわ。仕事着はに置くし」
「それだけじゃ分です。
麦まみれで、油も使うでしょう。歳の子供がいるにはかも」
、管理には倍気を配ってきた。