"大晦日の離婚届" 第1話
夜2。健は、静まり返った自宅の玄関で、暗のに佇みながらスマートフォンの画面をじっと見つめていた。液晶の微かなが、47歳の公認会計士である彼の引き締まった、しかし疲労の滲む顔を無質に照らしている。
ガチャリ、とい鉄製のドアがく音が静寂を破った。
「ただいま。今も疲れちゃった」
玄関に滑り込んできた妻のみさきは、にしたスマートフォンを覗き込みながら、屈託のない笑顔を俺に向けた。その表には、夫を裏切っているという罪悪など微もじられない。
巧みはソファからゆっくりとちがり、リビングの気のスイッチを押した。パチン、とるいが玄関まで届き、みさきの顔をのに晒す。俺は彼女の目を真っ直ぐに見つめ、静かに、しかしはっきりと告げた。
「お疲れ様。証拠ばっちりだし、婚届け」
その瞬、みさきのきが完全に止まった。さっきまでの笑顔が凍りつき、にしたバッグがにドサリと落ちる。彼女の顔はみるみるうちに蒼になっていった。
15、俺たちは確かにしっていた。翌には息子のショ太がまれ、自由のない幸せな庭を築き、族3で笑いった々がそこにはあった。しかし、半からすべてが変わってしまったのだ。
俺は、揺してをパクパクとかす妻をややかな目で見つめながら、ダイニングテーブルのに分い3冊のファイルを並べた。
広告
それは、彼女が完璧に隠し通せていたとい込んでいた、半分の倫の記録だった。
は、その半の615、曜の朝に遡る。
午7。いつもと変わらない朝だった。俺が2階の寝からダイニングにりると、みさきはすでに朝の準備をしていた。キッチンからは噌汁の豊かなりと、焼き鮭のばしい匂いが漂ってくる。15、ずっと変わらないできる朝の景のはずだった。
みさきは俺が席に着くのを見ると、いエプロン姿のまま、いつものように柔らかな笑顔を見せた。
「おはよう。コーヒー入れるね」 「あ、ありがとう」
受け取ったコーヒーカップからは湯気がちっている。特に変わったところはない、そううべきだった。だが、この朝の何気ない会話がにすべてを変えることになるとは、このの俺はる由もなかった。
テーブルを囲んでいると、2階から18歳の息子、ショ太が制姿でりてきた。
「おはよう」 「お、ショ太、今は模試だったか?」 「うん。夕方までかかるよ」 「お弁当作ったから頑張ってね」
みさきはショ太のに弁当箱を置きながら、微笑みかけた。学受験を控えた息子と、それを支える専業主婦の妻。ごく普通の庭のごく普通の朝の会話だ。
俺は聞を広げ、株価に目を通しながらコーヒーをに運んだ。ショ太はスマートフォンを見ながら、黙々とご飯をに運んでいる。
広告
俺はこの常が永に続くものだと信じて疑わなかった。しかしその朝、俺は気づいてしまったのだ。本当にさな、しかし決定な違に。
みさきが俺の横を通り過ぎた、ふと、あるりが腔をついた。
(だ……。朝からをつけているのか?)
それ自体は珍しくないかもしれない。みさきは元々、だしなみに気を使う女性だ。だが、そのりがいつもとらかに違っていた。いつものみさきが用しているのは、フローラル系の軽やかな、庭なりだった。それが今朝のりは、もっとで甘く、っぽい官能な響きを帯びていた。
の級ブランドの。俺にはそれがすぐに分かった。なぜなら、俺がちげた雫会計事務所の女性スタッフが、以同じようなをつけていたからだ。
俺はわず聞を持つを止め、キッチンの妻を観察した。みさきは背を向けたまま、際よく片付けをしている。
「どうかした?」
俺の線に気づいたのか、みさきが振り返って首を傾げた。
「いや、なんでもない。気のせいだろう」
しいを買ったのだろうか、ただそれだけだと言い聞かせた。
朝を終え、ショ太が先に玄関をてった。俺も勤の準備をするために、洗面所の鏡のでスーツを着てネクタイを締めた。