"紙袋の中の二千万円" 第1話
「今すぐ帰って。帰らないなら警察呼ぶから」
玄関の向こうで、娘の声がく響いた。
真紀、歳。かけて貯めた千万円を、こののとして渡した私が、そのので通報される側としてち尽くしていた。
の横には、居祝いのがまだ並んでいた。娘の夫・岸本健太の勤め先、娘の友たちの名。そのに、私の名はなかった。
私は肩にかけていた古い袋を持ち直した。茶く焼けた持ちが、指に細くい込む。袋の隅には、もういない夫の字で、私の名がさくかれていた。
警察を呼ばれるほどのことをした覚えはない。
ただ、孫のひなの歳の誕と居祝いを兼ねた事会に呼ばれ、しめに来て台所を伝おうとしただけだった。
朝から筑煮とだし巻き卵を作った。どちらも、ひなが好きだと娘がに言っていたからだ。を度乗り継ぎ、めないように包んで運んできた。
けれど、玄関をけた娘の第声は、料理への言葉ではなかった。
「その、やめてくれない? 写真に映るから」
私は胸元を見ろした。黄のワンピースにいのカーディガン。いものではないが、、町内会の集まりのために買った、私なりのよそきだった。
何も言わず、私はカーディガンを脱いで袋のに畳んだ。
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居のは、しいの匂いと甘いクリームの匂いで満ちていた。い壁、広い窓、。娘がさい頃、広告を見ながら「いつかこんなにみたい」と言ったことがある。
狭い団の卓でその言葉を聞きながら、私は噌汁をよそっていた。あのは「みたいだね」と笑った。
まさか、そののを、私の老資からすことになるとはわなかった。
台所へき、私はを洗った。持ってきた煮物を器に移そうとした、娘がろから言った。
「触らないで。油の匂いがつくから」
私はを止めた。
何に匂いがつくのか、瞬わからなかった。娘は鍋を見ることもなく、蔵庫の横を指した。
「それ、で見るから。とりあえず隅に置いといて」
その「で」という言葉のに、卓へす気のなさが透けていた。
私は鍋を抱えたまま、黙って蔵庫の横に置いた。
娘はスマートフォンを縦に構え、部の飾りを何枚も撮っていた。ひなの名を入れた、数字ののキャンドル、桃のテーブルクロス。写真に映るものだけが、今は事なのだと、その背が語っていた。
私は昔から、写真に写るのが苦だった。
夫がきていた頃、旅に連れてってもらったのは度だけだった。そのも私は景より、弁当の残りを気にしていた。
歳で夫をくしてからは、ますます自分のことにおを使わなくなった。
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、朝に起きてセンターへ向かい、昼過ぎに戻ってから惣菜の仕分けに入った。夜は計簿をつけた。休みのも、週分の献と特売の計算ばかりしていた。
娘の学費が途切れないように。邪をひいても、腰を痛めても、薬を半分に割ってみながら働いた。
私のは、そうやって細くく、娘の方へ流れていった。
けれど娘にとって、そのはありがたいものではなく、濁ったものだったのかもしれない。
、娘がの、交換留学の話を持ってきたことがある。
学の先に勧められたと、目を輝かせていた。資料の端には、滞費や航空券の額が細かくかれていた。
私はそのを見るなり、無理だと言った。
「にそんな余裕はない。お父さんの保険も、まだ全部は残ってないし、学だってこれからでしょ」
娘は何も言わず、資料を畳んだ。
そのの夕飯、娘は噌汁をもまなかった。台所で皿を洗いながら、私は正しいことをしたはずだと何度も自分に言い聞かせた。
けれど、娘の横顔は、そのを境にしだけ変わった。
貧しさを恥だと覚えたのは、あのだったのかもしれない。
リビングから、健太の笑い声がした。
「正直、今は親しいだけでよかったんですけどね」
声は柔らかいのに、はたかった。
私は曖昧に笑おうとしたが、うまくがかなかった。
健太は営業の仕事をしている。