"壁の奥にいた妻" 第4話
桂太郎にとって、それは許せないことだった。
夕、美紀がキッチンで皿を片付けていた、ろからい衝撃がった。桂太郎がい皿で美紀のを殴ったのだった。
識を失った美紀を、桂太郎はへ運んだ。
父親が昔、具を保管するために作った窓のない部があった。そこに美紀を横たえ、壁に取り付けられた属の輪に鎖を通した。
美紀が識を取り戻した、最初に見えたのは裸球のだった。
次に、腰のみ。
鎖だった。
どれだけこうとしても、壁から2m以れることはできなかった。
桂太郎はい声で言った。
「静かにしていればべ物とは持ってくる。叫んだり逃げようとしたりすれば、何も与えない」
美紀は最初、それがな狂気だとおうとした。
数すれば、桂太郎は正気に戻る。
謝って、解放してくれる。
そう信じたかった。
けれど、は週になり、週はになった。
桂太郎は仕事を終えるとへりてきた。べ物とを置き、バケツを替え、には薬を投げるように置いた。会話らしい会話はなかった。彼は美紀の訴えを聞こうとしなかった。
美紀は何度も叫んだ。
助けて。
ここにいる。
誰か。
だがは防音性がく、には届かなかった。桂太郎はほとんど客をに呼ばなくなり、美紀が誰かに気づいてもらう会は消えていった。
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聞の切れ端だけが、の世界との唯のつながりだった。
美紀は付を数えた。
「今で100」
「になったらしい」
「では桜が咲いているのだろうか」
1が過ぎた頃、記録はしくなっていた。
「今は魚を持ってきた。自分で釣ったと言った。でもで買ったものだとう。私を馬鹿だとっている」
「背が痛い。ずっと座っているからだ。しいマットレスを頼んだが、これで分だと言われた」
「救急のサイレンを聞いた。誰かが助けられているのだろう。私のところにも来てほしい」
文字は次第に乱れていった。
り、絶望、諦め、そしてわずかな希望。
すべてがのに残されていた。
美紀はきていた。
誰にもられず、同じので。
監禁が引くにつれ、美紀のと体はしずつ壊れていった。
運と栄養により、関節は痛み、髪は抜け、歯も悪くなった。体調を崩してがても、桂太郎は医師を呼ばなかった。薬をし置いていくだけで、あとは放置した。
「自分の声を忘れてしまいそう」
美紀はある片にそういていた。
には、話し相がいなかった。桂太郎は毎来ることもあったが、必最限のことしか言わない。美紀が何かを訴えても、無するか、たい言葉で黙らせた。
「ってみた。声がかれていて、自分の声ではないみたいだった。
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黙っている方がましだとった」
1994頃の記録には、現実とが混じり始めていた。
「壁が私に話しかけてくる」
「母が隅にっていた。もうすぐ迎えに来ると言った」
「しい鎖が来た。古いものよりい。っていて、きれいだとってしまった」
それは、美紀の精神が限界にづいている証だった。
桂太郎はその変化に気づいていた。だが、それを恐れるどころか、むしろ都がいいとじていた。抵抗しない、叫ばない、助けを求めない。彼にとって美紀は、完全に支配できるへと変わっていった。
1995、桂太郎には県本部への転任の話がた。
周囲から見れば栄転だった。だが桂太郎は、実への着を理由に断った。
本当の理由は別にあった。
彼は美紀を置いていけなかった。
数、にりる活は、桂太郎にとって異常な常になっていた。仕事では規則を守る警察官でありながら、に戻ればで絶対な支配者になる。そのの活に、彼は慣れてしまっていた。
1996、美紀の健康状態は急速に悪化した。
胸の痛み、失神、呼吸の苦しさ。の拘束とな環境が、体を蝕んでいた。
美紀はいた。
「全が痛い。にたい。でもぬのも怖い」
「桂太郎は、私がんだら庭に埋めると言った。誰もることはないと言った」
1997になると、美紀はほとんど歩けなくなった。
古いマットレスので横になるが増え、に文字をく力もくなった。
それでも、折希望のような言葉が残されている。