"レモングラスの下の悪臭" 第10話
持っていたさなマンションを売り、訴訟で受け取った民事賠償を加えて、町れの沿いにさなパンをいた。
しい台所に初めてった朝、オーブンからバターとバニラ、温かい牛乳のりがちのぼった。私はその匂いを吸い込み、目がくなった。
それは煙でも、腐敗臭でも、レモングラスで覆い隠した偽りの匂いでもなかった。
焼きたてのパンの匂いだった。
先で母が声をかける。
「焼きたてのパンができましたよ」
その声を聞きながら、私は初めて、自分のに記憶したい匂いが戻ってきたのだとった。
ある週末、健太先輩がにち寄り、さなデイジーの束をテーブルに置いた。
「商売の才能があるな」
私は笑った。もう、無理に作らなくていい笑顔だった。
私は急いで誰かとしいを始めるつもりはない。自分が丈夫だと証しようと無理をするつもりもない。
度炎をくぐり抜けたは、平穏とは見せびらかすものではなく、守り抜くものだとる。
世のには、のためにすべきこともある。けれど、絶対に目をつぶってはいけないこともある。
違ったことを見て沈黙することは、に悪が育つのを助けることと同じだ。
配偶者を、族を、の寄り所を選ぶ、表面な優しさだけを見てはいけない。
誰も見ていない、そのがい者をどう扱うか。
そこにこそ、本当の顔が現れるのだから。