"レモングラスの下の悪臭" 第2話
彼は笑った。
「君はこんなことを覚えなくていい。僕が全部やるから」
そのだった。
佳さんがさくげっぷをした瞬、奇妙な悪臭がぷうんと漂った。
私は器を片づけていたを止めた。
それは漢方薬の匂いでも、齢者特の体臭でもなかった。湿ったカビと臭さが混ざり、そこに属のようなな匂いがなっていた。まるで濡れた所にく放置された鉄くずのような匂いだった。
「これ……何の匂いですか?」
わず半歩がって尋ねると、裕さんの元の笑みが瞬だけ固まった。
けれど彼はすぐに平然と言った。
「ああ、薬のせいだよ。薬によっては発酵するとし匂いがくなるものがあるんだ」
彼は義母の背を軽くさすりながら続けた。
「お寄りがく用していると、息からし匂いがることもあるよ」
私は笑って頷いた。けれど、その瞬から、あの匂いがかられなくなった。
温かかった夕が、急にえたようにじた。
翌朝、私はいつもよりく目を覚ました。昨夜ので庭の葉先から滴が落ちていた。台所へり、義母のためにお粥を作り、勤する裕さんのためにコーヒーを淹れた。
のの常は、歯のように正確に回っていた。ただ、昨夜のあの悪臭だけが、私のかられなかった。
お粥を載せた盆を持ち、2階の義母の部へがる。
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廊の突き当たりにあるその部のドアは、いつもしだけいている。に入ると、まずレモングラスのりがをくすぐった。棚の隅にはアロマディフューザーが置かれていた。
部はきれいだった。シーツは皺ひとつなく伸ばされ、カーテンは朝が細く入る程度にけられている。目に見えるものだけなら、この部の世話をしているがどれほど几帳面か、誰もが褒めるだろう。
けれど、しばらくっているうちに気づいた。
爽やかなアロマのに、何か別の匂いが潜んでいた。昨夜ほどくはない。けれど、必に覆い隠そうとしても隠しきれない、じっとりとしたな匂いだった。
佳さんはベッドにもたれて座っていた。の髪はきれいに梳かれていたが、目のきはゆっくりとしていた。
「佳さん、温かいうちにどうぞ」
私がテーブルに盆を置くと、佳さんは私をしばらく見つめた。
「おは……さやかかい」
「はい、私です」
彼女はさく頷き、スプーンを持った。けれど、そのはひどく震えていた。私が座ってべさせようとした瞬、浴の方から裕さんが温かいタオルを持っててきた。
「僕がやるよ」
優しいけれど、きっぱりした声だった。
「母さん、今朝はし元気がないみたいだ。君は勤の準備をしなさい」
「でも、私もべさせるくらいなら……」
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「分かってる。でも母さんは僕のに慣れているから」
彼は相変わらず穏やかな笑みを浮かべていた。
「さあ、着替えて。バスのに遅れるよ」
私はそれ以言えなかった。部をる、背で彼のい声が聞こえた。
「お母さん、いい子ですね。これを全部べたら、お薬をみましょうね」
いい子ですね。
その言葉は優しく聞こえるはずなのに、なぜか指先がえた。
それから数、私は義母を注く観察するようになった。佳さんは昼も眠ることが増えた。私が仕事から帰ると、ベッドに横たわり、3回呼びかけてようやく瞬きをすることもあった。唇は乾き、顔はどす黒く沈んでいた。
ある夜、台所で裕さんと皿を洗いながら、私は切りした。
「最、佳さんの様子がおかしいとうの。眠ってばかりいるし、顔も悪いし。度お医者様に診てもらった方がいいんじゃないかしら」
裕さんは皿を拭くを止めずに言った。
「何がどうおかしいんだ?」
「ずっと横になっているし、唇も乾いているわ。それに……あの匂いもまだするの」
彼はそこでを止め、私の方を振り返った。
「さやか、君は事部の職員で、僕は製薬会社に勤めている。母さんの健康状態は僕が毎見ているよ」
声は落ち着いていた。けれど、私の言葉が入り込む隙はなかった。
「夫をくしたショックで記憶力が衰え、眠りがちになり、反応が鈍くなる。
齢者には分あり得ることだ。