"月2万円の老後" 第4話
「ありがとう。でも、お母さんは決めたわ。に帰る」
翌朝、健が迎えに来た。
「お母さん、荷物はまとまりましたか。とりあえずへ戻って、それから老ホームを何か所か見学しましょう」
その瞬、良子は完全に理解した。
子どもたちには、もう頼れない。
「健、ありがとう。でも私は自分のに帰るわ。タクシーを呼んでくれる?」
「お母さん、その膝で1は危険です」
「私の選択は、私がするわ」
そうして良子は、自分のへ戻った。
8週ぶりに戻った自宅には、うっすらと埃が積もっていた。
それでも玄関に入った瞬、良子はく息を吸った。
ここは自分の空だった。
誰の顔も見なくていい。誰かの活の邪魔になっているとじなくていい。痛む膝を引きずりながらでも、自分のに戻れたことだけで、はし落ち着いた。
けれど現実は厳しかった。
に帰った初、良子は膝の痛みでほとんどけなかった。トイレにくことさえきな苦痛だった。台所までを取りにこうとして、途で転びそうになった。
子どもたちには話できなかった。
話すれば、今すぐ老ホームに入ってくださいと言われるだけだと分かっていたからだ。
結局、良子は介護士の派遣業者に話をかけた。
「田さん、24介護が必とのことですね」
「はい。両膝の関節置換術で、1での活が難しくて」
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「24介護の、12万8000円で、1かで38万円ほどになります。週末や祝には追加料が発します」
その瞬、良子は息が詰まった。
は13万円。
介護費だけで38万円。
「もうしい選択肢はありませんか」
「昼だけ12でしたら、11万4000円、20万円くらいになります」
それでもでは到底まかなえない。
けれど、に方法がなかった。
「では、昼12でお願いします」
翌から、介護士の吉田が来ることになった。60代半の女性で、経験豊富に見えた。
「こんにちは、田さん。これからお伝いする吉田です。よろしくお願いします」
最初の数は丈夫だった。
吉田は事も伝い、トイレの付き添いも丁寧だった。
しかし1週ほどすると、問題が起き始めた。
「は来るのが難しそうで、代わりの者が伺います」
翌来たのは20代半ばの若い女性だった。経験が浅いのか、良子の状態をうまく理解できず、トイレの付き添いもぎこちなかった。
そのも介護士は頻繁に変わった。
毎回、しいに自分の体の状態、の取り、薬の所、トイレまでの歩き方を説しなければならない。それだけで、良子は疲れ果てた。
あるには、介護士がまったく来ないこともあった。
「申し訳ございません、田さん。本担当の者が急に来られなくなりまして」
そのは1、ベッドからられなかった。
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1かが過ぎると、介護費として20万円がていった。だけではりず、定期預を崩した。
それ以に辛かったのは、にがいる覚だった。
介護士に悪気はない。
しかし、自分のなのに気を使う。テレビを見るにも、話をするにも、誰かの気配がある。トイレにくことさえ、声をかけなければならない。
としての尊厳が、しずつ削られていくようだった。
良子はついに健に話をした。
数、健は良子のを訪ねてきた。
「お母さん、1での活は難しいって言ったじゃないですか」
「そうね。あなたの言う通りだったわ」
健はすぐに言った。
「じゃあ、老ホームを度見学してみませんか。本当に良いところがあるんです」
良子はい沈黙の、ゆっくり頷いた。
老ホームが唯の選択肢のように見えたからだった。
翌、健は良子を「桜園」という施設へ連れてった。
観はホテルのように清潔で、級があった。ロビーにはが飾られ、スタッフは笑顔で迎えてくれた。
「当施設は24護師が常駐しており、医師も毎訪問します。事は栄養士が健康状態にわせて用します」
施設は誇らしげに説した。
部は広く、トイレもきれいで、活にはさまざまなプログラムが用されていた。
しかし、良子は入居者たちの目を見てしまった。
その目を、30見続けてきた。
体は楽かもしれない。
けれどは自由ではないの目だった。