"雨の美容室ローズ" 第4話
傘も差さずに、に濡れたままローズさんの戸をけて入っていったんです」
「は覚えていますか」
「夕方の6をし回った頃でしたかしら。私がじまいの支度をしていただから、分そのくらいです」
は帳にき止めながら、さらに尋ねました。
「その男がからてくるのは見ましたか」
本さんは申し訳なさそうに首を横に振りました。
「いえ、それが、私はそのすぐを閉めて奥に引っ込んでしまったものですから、てくるところは見ていないんです。でもね、刑事さん、1つ気になったことがあるんですよ」
「と言いますと」
「あの男の、ローズさんとずいぶんいこと話し込んでいたみたいなんです。私が奥で夕飯の支度をしながら窓から見たら、もう7くだっていうのに、まだのかりがついていて、しず子さんと男のが向かいって何か刻そうに話しているのが見えました。ただ髪を切りに来たっていうじじゃなかったですね」
はしばらく黙って、その言葉を胸の内で繰り返しました。
夕方6過ぎに訪れ、7くまで刻そうに話し込んでいた見慣れぬ男。
それが、しず子さんが消えるの晩の、最の景でした。
「ありがとうございます。とても助かりました」
は本さんに礼を言って、をました。
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はやみになっていましたが、空気はじっとりと湿っています。
はローズの閉ざされたガラス戸を、しばらくじっと見つめていました。
その男は体何者なのか。
しず子さんとどんな関係があったのか。
そして、しず子さんが消えたことと、その男は関わりがあるのか。
捜査本部に戻ったは、しず子さんが消えたその晩のことを、もう度詳しく調べ直すことにしました。
そこで1つ、分かったことがありました。
しず子さんには、のし変わった習慣があったのです。
それは、に初めて来た客、いわゆるび込みの客が来ると、常連カードを作るという習慣でした。
しず子さんは、お客の解を取ったうえで、当流りしたばかりのインスタントカメラで顔を1枚撮りました。そして、その写真をのカードに貼り、名や髪型の好み、来の付などをき込んでおくのです。
「お客さんの顔と名を覚えるのは、美容師の1番の仕事だからね。私は物覚えが悪いから、こうやって写真に撮っておかないとすぐ忘れちゃうのよ」
しず子さんは、よくそう言っていたそうです。
常連になったお客には、
「あら、あなた、あのはこんな髪型だったのね」
と古いカードを見せて、2で笑いう。それがローズのささやかな名物のようなものでした。
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そのカードを集めた古い箱が、の奥の棚から見つかりました。
は、その箱ののカードを1枚1枚丁寧に調べていきました。何百枚ものカードには、町のおなじみの顔がたくさん並んでいました。
けれど、いくら探しても、あの最の客、紺の着を着た痩せた男のカードは見当たりませんでした。
「カードがない」
はく唸りました。
び込みの客なら、しず子さんは必ずカードを作ったはずです。
それなのに、その男のカードだけがどこにもありません。
考えられることは2つでした。
1つは、その男がカードを作るのを断ったということ。
もう1つは、しず子さんがその男のカードを作らなかったということです。
なぜなら、その男のことを写真に撮るまでもなく、すでによくっていたから。
もし者だとすれば、その男はしず子さんにとって初めての客ではなかったことになります。
見慣れぬ顔ではあっても、しず子さんにとっては、見覚えのある、いや、よくった相だったのかもしれません。
けれど、それを確かめる術はありませんでした。
男の名も、まいも、連絡先も、どこにも記録は残っていなかったのです。
たちはその男を「最の客」と呼び、方を追いました。
似顔絵を作り、隣の駅や商、宿などに聞き込みをしました。
けれど、に濡れた1の男の取りは、まるでそのものに流されてしまったかのように、どこにもたどることができませんでした。