"パリへ発った妻の代償" 第6話
母が闘病しているから、広は次のを準備していたのだ。
それも、俊子と緒に。
俊子からは毎のようにメッセージが届いた。
「今は佐々さんとルーブルにってきたわ」
「こっちのクロワッサン、本当においしい」
「エッフェル塔、夜にライトアップされるのがきれいだったわよ」
すべて嘘だった。
佐々さんなど緒にいない。
隣にいるのは瀬広だ。
2で級ホテルに泊まり、宝飾を巡り、産エージェントと会い、しい活の算段をしている。
誠郎はそれらのメッセージに穏やかに返信した。
「楽しそうだね。ゆっくりしておいで」
「クロワッサン、楽しみにしてるよ」
「きれいだっただろうね。写真を撮っておいてくれ」
文字文字が芝居だった。
何もらない夫を演じ続ける。
りを押し殺し、無関なふりをする。
だが今の沈黙にはがあった。
俊子が帰国するまで気づかれないこと。
帰国したに、全てを同に突きつけること。
それが作戦だった。
匠からも捗の報告が入った。
「父のメールに、産エージェントからの返信がありました。パリ郊の2部のアパルトマンで、価格は本円で約3500万円。付300万円はすでに払っています。本契約は来10です」
「帰国すぐか」
「はい。遺産分割調を急がないと、資がへ流れます」
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41、匠から連絡があった。
「帰国便が確定しました。44、成田着午1035分。父と俊子さんは隣同士の席です」
誠郎はその報を田弁護士へ伝えた。
「空港で待ちます」
田弁護士はしを置いて言った。
「到着で2が並んでてくるのを見届け、そので面を渡す。確かに言い逃れはできません」
匠も来ることになった。
彼は広に遺産分割調の申してを渡す。
誠郎は俊子に婚調の面を渡す。
同に。
確実に。
43の夕方、俊子から最のメッセージが届いた。
「帰るわね。お産いっぱい買っちゃった。蔵庫けておいてくれる?」
誠郎は画面を見つめ、さく息を吐いた。
「分かった。けておくよ。気をつけて帰っておいで」
送信ボタンを押す指に、もう迷いはなかった。
44、朝6。
誠郎は目覚まし計が鳴るに目を覚ました。
布団のに座り、しばらくかなかった。
今だ。
こののために、3ヶ記録をつけてきた。いや、もっとからだ。俊子の変化に気づきながら黙って耐えてきた々を数えれば、1以になるのかもしれない。
顔を洗い、髭を丁寧に剃った。
鏡に映る自分は70歳の男だった。い皺、い髪、こけた頬。だが目だけは違っていた。途方に暮れた老の目ではなかった。
覚悟を決めたの目だった。
朝を簡単に済ませ、ジャケットに袖を通した。
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普段着よりしきちんとした装だった。式典にるわけではない。ただ、筋を通すには、それにふさわしいなりが必だとった。
鞄には、田弁護士から受け取った封筒を入れた。
婚調の申しての写し。
貞為の証拠目録。
1200万円の返還請求に関する通。
証拠のコピー。
すべてを指差し確認した。
問題ない。
全て揃っている。
玄関で靴を履きながら、壁の族写真に目をやった。
「ってきます」
誰もいないに向かって、誠郎はさく呟いた。
成田空港に着いたのは午940分だった。
到着予定は1035分。まだ1くある。到着ロビーのベンチに腰をろし、誠郎は鞄のの封筒にを触れた。
10を過ぎた頃、匠から話が入った。
「藤堂さん、今どちらですか」
「到着ロビーのベンチにいる。Aのくだ」
数分、匠が混みのから現れた。
今はダークネイビーのスーツにいシャツ。ネクタイもきちんと結んでいる。初めて誠郎のを訪ねてきたの疲れ切った印象とは違い、目には確な志のがあった。
「ちゃんと寝られたかい」
「正直、あまり」
「私も同じだよ」
2はさく笑った。
匠も封筒を持っていた。遺産分割調の申して、広宛ての通、妹まゆの委任状。それらが入っているという。
1020分を過ぎ、掲示板にパリ発の便が到着済みと表示された。
そこから先のの流れは、自然なほど遅くなった。
旅者たちがしずつ到着からてくる。