"パリへ発った妻の代償" 第4話
藤堂さんの奥様、俊子さんでした」
名を聞いても、誠郎は表を変えなかった。
ただ、湯呑みを持つ指先にしだけ力が入った。
匠はスマートフォンを取りし、画面を誠郎の方へ向けた。
そこには、クレジットカードの利用細をまとめたスクリーンショットが映っていた。パリの級ホテル、航空券2分、宝飾、レストラン、そしてパリの産エージェントへの支払い。
「父はパリで物件を探しています。奥様と緒に移するつもりなんです」
誠郎は画面をじっと見た。
「そして、この費用のすべてが」
匠の声が震えた。
「母の遺産からています」
空気が変わった。
匠の母は、実が古くからの主ので、産を相続していた。くなった、広はその産を売却した。総額は約8000万円。本来なら広、匠、妹のまゆで遺産分割協議をしなければならなかった。
だが広は話しいを先延ばしにし、全額を自分の座へ移してしまった。
「8000万円です。母が残してくれたおを、父は浮気相との活に注ぎ込んでいるんです」
匠はスマートフォンを置き、両で顔を覆った。
「母は最まで父を信じていました。子供たちのことはお父さんに任せてあるからしなさいって、そう言って逝ったんです」
声が詰まった。
匠は肩をさく震わせていた。
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誠郎は何も言わなかった。易な慰めの言葉はてこなかった。この青の痛みは、が軽々しく触れていいものではない気がした。
やがて匠が顔をげた。目は赤い。しかし、その奥にはしみだけではないがあった。
「藤堂さん、僕は父を許せません。でも1では何もできなかった。法にこうにも証拠がりない。父は用いで、都の悪い類はすぐ処分してしまう。僕がいているとられたら、残りの資産もに移してしまうかもしれない」
匠は誠郎の目をまっすぐ見た。
「藤堂さんも、このまま黙っているおつもりですか」
い沈黙が流れた。
の音が窓を叩いている。
誠郎はゆっくりとちがり、斎に向かった。そして引きしの奥から1冊のノートを取りし、リビングへ戻った。
何の変哲もない学ノートだった。
表にはタイトルも名もかれていない。
「し見てもらえますか」
誠郎はノートをテーブルに置き、最初のページをいた。
匠の目が見かれた。
そこには3ヶ分の記録がびっしりとき込まれていた。
付。
曜。
。
俊子の先の申告内容。
帰宅。
クレジットカードの利用履歴。
審な話の帯。
携帯話の通に表示された名と文面の部。
すべてが几帳面な字で、正確に記されていた。
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「3ヶの夜、妻が見らぬ男と話しているのを聞きました。それから記録を始めた。データがりないうちはかない。分な報が揃ってから判断する。技術の習性でね」
匠はノートのページを1枚ずつめくりながら、呆然としていた。
「これ、完全に調査報告じゃないですか」
「げさですよ。ただの記録です」
誠郎は淡々と言った。
「ただ、りないピースがあった。相の男がどういうなのか、何を考えているのか、資産がどうなっているのか。私1ではそこまで調べられなかった」
誠郎は湯呑みを置き、静かに言った。
「だが、君が来てくれた」
匠の目が見かれた。
「黙っているつもりはなかったんだよ、最初から。ただ、準備が必だった。そして今、君が来てくれたことで」
誠郎は穏やかに、しかし揺るぎない目で匠を見据えた。
「最のピースが揃った」
はしずつりになり始めていた。
誠郎は匠に、の庫から定期預の証が数枚消えていることを話した。
「定期預の証を入れていたはずなんだが、この確認したら数がわなかった」
匠の目が鋭くなった。税理士の顔だった。
「それは、奥様が無断で解約した能性があるということですか」
「まだ確認できていません。に問いわせれば分かることですが、俊子に気づかれたくなかったので、あえてきませんでした」
「すぐに確認した方がいいです。もし奥様が無断で解約していたとなると、婚調でも裁判でも非常にきなを持ちます」