"パリへ発った妻の代償" 第3話
「そうですが」
「お忙しいところ本当にすみません。僕は瀬匠と申します」
誠郎のが、インターホンの受話器ので止まった。
瀬。
「瀬広の息子です」
瞬、が止まったような覚があった。
誠郎は受話器を置き、玄関へ向かった。ドアチェーンをし、鍵をけ、引き戸をいた。
目のにっていた青は、モニターで見たよりもさらに疲弊した顔をしていた。粒が髪から頬を伝って落ちている。背は誠郎より1つ分ほどいが、背が丸まり、どこかさく見えた。
「藤堂さんですね」
「ええ」
匠は1度きく息を吸った。
そして、くをげた。
「父が奥様と緒にパリへ発ちました。今朝の便で。本当に申し訳ありません」
その言葉を聞いても、誠郎は議と揺しなかった。
今朝の切れで確信していたことを、別ののから改めて聞いただけだった。
ただ、に濡れた青が々とをげている姿には、胸に迫るものがあった。
この青は加害者の息子だ。
本来ならむべき相の内のはずだった。
それなのに、こうしてのをわざわざ訪ねてきてをげている。
それは相当の覚悟がなければできないことだった。
「顔をげてください」
誠郎は静かに言った。
「ち話もなんですし、へどうぞ。濡れているでしょう」
匠はゆっくりと顔をげた。
広告
目は赤く充血していた。昨夜眠れなかったのだろう。あるいは泣いていたのかもしれない。
「いいんですか」
「構いませんよ。さ、入って」
誠郎はドアをきくけた。
匠は礼して、おずおずとにがった。
玄関のたたきにのしずくがぽたぽたと落ちる。誠郎は洗面所からタオルを2枚取ってきて、匠に差しした。
「リビングでお待ちください」
キッチンで茶葉を急須に入れ、湯を注ぐ。いつもの作を、いつも通りにこなす。が震えていないか、自分で確かめた。
丈夫だ。
震えてはいない。
湯呑みを2つ盆に乗せ、リビングに戻ると、匠はソファの端に浅く腰かけ、膝のに両を置いてを見つめていた。まるで裁きを待つのようだった。
「どうぞ」
誠郎が湯呑みを差しすと、匠はさく礼を言って受け取ったが、すぐにはをつけなかった。
向かいって座り、しばらく沈黙が流れた。
先にをいたのは、誠郎だった。
「瀬さんの息子さんが、なぜ私のところへ」
匠は湯呑みを両で握りしめたまま、絞りすように話し始めた。
「藤堂さんは、どこまでごじですか。父と奥様のことを」
「つい先ほど、確信したところです。今朝、妻が置き忘れたの裏に、お父さんの字でパリきの便名がいてありました。妻は友との国内旅だと言っていましたが、嘘だったということです」
広告
匠はさく頷いた。
「やはり、そうですか」
誠郎は淡々と言った。
「浮気するが、相に正直に言うわけがありませんからね」
その調があまりに穏やかだったので、匠はし面らったようだった。
「っていらっしゃらないんですか」
「っていないわけではありませんよ。ただ、今ここで湯呑みを投げつけても何も解決しないでしょう」
誠郎は茶をんだ。
「それより、あなたの話を聞かせてください。わざわざ来てくれたのには理由があるのでしょう」
匠は呼吸置き、目を伏せたまま語り始めた。
「僕は税理士をしています。個事務所を構えて7になります。父とは、正直もうずっとうまくいっていません」
その声は落ち着いているようで、所々かすかに震えていた。
「母は3にくなりました。胃がんでした。見つかったにはもうステージ4で、の施しようがありませんでした。入院してから半、父は毎病院に通って母のを握っていました。周りから見れば、本当に献な夫でした」
そこで匠は言葉を切った。
唇をきつく結び、何かをこらえるような顔をした。
「でも、母がくなったで分かったんです。父は、母の入院からすでに別の女性と関係を持っていました。母が病気で苦しんでいるも、見いのないにはで事をして、旅までしていた」
誠郎は黙って聞いていた。
「その相が、奥様だったんです。