"橋の下で見つけた孫" 第7話
その平穏は、ある曜の午に破られた。
が観客と常連客で賑わっている、1台のタクシーがのに止まった。
りてきたのは、体にぴったりったブランド物のワンピースを着た女だった。きなサングラスをしたその顔を、里子は忘れるはずがなかった。
ゆかりだった。
内の空気が凍りついた。
剣太のから菓子箱が落ち、きな音をてた。美咲は絵本をに落とし、父親の背へ隠れた。
「美咲、しい子」
ゆかりは膝をつき、作り物の涙を浮かべて両腕を広げた。
「ママよ。迎えに来たの」
美咲はずさった。
「パパ、あの、誰?」
その言葉が、里子のを刺した。美咲は目のの女が自分を捨てた母親だと、もういせないのだ。
里子はゆかりと美咲のにった。
「ここはあなたが来ていい所じゃないわ。帰りなさい」
ゆかりの作り笑いが消えた。
「分かったわ。はっきり言うなら、私は美咲の親権を取り戻しに来たの。それからこのも、半分は私のものになるはずよね」
剣太が掴みかかりそうになった。
里子は彼の腕を押さえた。挑発に乗ってはいけない。
「あなたには1円も渡さない。そして美咲にづくことも許さない。今すぐ帰りなさい。さもなければ警察を呼ぶわ」
ゆかりはく笑った。
「裁判所からの呼びし、楽しみにしていなさい」
そう言い捨て、タクシーに乗り込んでっていった。
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にはい沈黙が残った。
嵐は、もう始まっていた。
ゆかりがって数、ネットに悪のある投稿が現れた。
「甘鈴のココナッツ菓子をべた息子が、晩腹痛で苦しみました。どんな材料を使っているのか分かりません」
投稿には、のロゴが入った菓子箱の写真が添えられていた。わざとっぽく、汚く見えるように撮られた写真だった。
里子の顔から血の気が引いた。
「甘鈴」は3代続く老舗だ。材料管理も管理も徹底し、これまで1度も毒などしたことはない。
剣太はすぐにの公式アカウントで説した。全ての材料は厳しく管理されており、品質証も提示できると、丁寧にき込んだ。
しかし、匿名のアカウントから批判が次々と押し寄せた。
「最が変だとってた」
「コスト削減で変な材料を使っているらしい」
「もう2度と買わない」
さらに2、SNSに画が投稿された。
若い女性が涙ながらに語っている。隣のベッドには、点滴につながれた子どもが横たわっていた。
「族経営のおだから信用したのに、息子が毒で入院するなんて。お願いです。あんな残酷なおをボイコットしてください」
ベッド脇には、これ見よがしに「甘鈴」の箱が置かれていた。
画は驚くほどの速さで拡散された。
の話は鳴り止まなくなった。
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けれど、それは注文ではなかった。キャンセル、罵声、脅迫だった。
「殺しの菓子め」
見らぬ男の声がそう叫んで、話を切った。
取引先からは契約止の連絡が相次いだ。販売の交渉をめていた企業からも、品質調査のため契約を保留するというメールが届いた。
学へ通っていた美咲にも響が及んだ。
ある、美咲は目を真っ赤にして帰ってきた。
「おばあちゃん、クラスの子がね、おばあちゃんのお菓子はを病気にするんだって。本当なの?」
里子は震える声を抑え、美咲を抱きしめた。
「違うわ。おばあちゃんのお菓子は、を込めて作っているの。絶対にを傷つけたりしない」
その夜、剣太は売れ残った菓子箱に囲まれ、の隅でうなだれていた。
「母さん、もうを閉めた方がいいのかもしれない。ゆかりにの半分を渡そう。これ以、母さんや美咲が苦しむのを見たくない」
里子は剣太の両を握った。
「聞きなさい。私たちは何も悪いことをしていない。このは、おじいさん、お父さん、そしてあなたと私の族の魂なの。あの女に壊させるものですか」
翌朝、若林弁護士と恩田がへ来た。
「まずネットの誹謗傷ですが、これは確な名誉毀損と業務妨害にあたります」
若林弁護士が淡々と言うと、恩田が資料を広げた。
「問題のき込みを追跡しました。
ほとんどが期で作られた捨てアカウントです。そのうちいくつかはのネットカフェから発信されています」