"橋の下で見つけた孫" 第2話
「おばあちゃん……本当に、おばあちゃん?」
その言葉が、里子の世界を根底から覆した。
「おばあちゃん」
その声はく震えていたが、聞き違えようがないほど、はっきりと里子のに届いた。
里子は反射にを引いた。臓が鐘のように胸を打ち、のがぐらぐらと揺れる。目のの汚れた女と、オーストラリアで幸せに暮らしているはずの孫娘・美咲の姿が、陽炎のようになっては散っていった。
「違いよ。お嬢ちゃん」
里子はちがり、歩ずさった。ぎこちない笑みを顔に貼り付けたが、声が震えているのが自分でも分かった。
「私の孫はね、いオーストラリアにいるの。あなたじゃないわ」
これ以、この子の目を見てはいけない。
しいのに、どこか希望に満ちたその瞳に見つめられたら、の堤防が崩れてしまう。
里子は踵を返し、でそのをれようとした。
背から、女のか細い声が追いかけてきた。
「おばあちゃん、かないで。おばあちゃん」
さな音が聞こえた。サンダルが面を叩く、ぱたぱたという音。女は泣きじゃくりながら、必にってきた。
里子は狭いの真んでを止めた。
振り向くと、痩せた女が里子のブラウスの裾を必に掴んでいた。もしをしたら、里子がのように消えてしまうとでも言うように。
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「本当に分からないの? 美咲だよ。おばあちゃん」
里子の胸に鋭い痛みがった。
ついに里子は観し、閉ざされたの階段に腰をろした。元のたいの触など、どうでもよかった。
「分かったわ。どうしてここに1でいるの? あなたのパパとママはどこ?」
女は首を横に振った。さなは里子のを固く握りしめ、2度とすまいとしている。
「信じてくれないなら、パパに会わせる。パパに会ったら、きっと信じてくれるから」
里子はためらった。
の半分は、今すぐ旅館に戻り、この会いをなかったことにしたいと叫んでいた。けれど目のの女のまなざしが、見えない縄のように里子を縛りつけていた。
里子はさく頷いた。
女は里子のを引いて、観客の笑い声が響く通りからざけていった。やがて町を流れる川沿いの、隠れるような細いのへ入る。湿気と、ごみが腐ったような匂いがを突いた。
そのは、古びたコンクリートののへと続いていた。
太陽のが届かないそこは、空気がく、ひんやりと湿っていた。里子の目にび込んできたのは、汚れた面に広げられた数枚の段ボール、擦り切れた毛布、空のペットボトル、そしてもう随分にが消えたさな焚きの跡だった。
ここはがむ所ではない。
こんなさな女の子が暮らす所では、断じてない。
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女は里子のをし、方へ駆けした。
「パパ、見て。誰を連れてきたか」
1の男が、ガラクタのを漁っていた。破れたジャケットを羽織り、細いで空き缶やペットボトルを拾い、きな袋に詰めている。
男は女の声を聞くと、しわがれた声で言った。
「美咲、に迷惑をかけるなって、いつも言ってるだろう」
男はすぐには振り向かなかった。ゆっくりと体を起こし、汚れたをズボンで拭ってから、ようやくこちらを見た。
その瞬、里子は息が止まるのをじた。
ぼさぼさの髪。顔を覆う無精ひげ。皮と骨だけになったような痩せた体。
それでも、里子には目で分かった。
剣太だった。
里子のたった1の息子だった。
からハンドバッグが滑り落ち、乾いた音をてて面に転がった。
「剣太……」
里子のる息子は、いつも冗談を言い、豪に笑い、力仕事も厭わない太陽のような青だった。里子が作る筑煮を「世界だ」と言って、きなで頬張っていた。
しかし目のにいる男の疲れ果てた瞳は、紛れもなく剣太のものだった。
剣太は里子を見るなり、顔を変えた。驚愕、恐怖、そしてい羞恥が、その顔に広がった。
彼はとっさに美咲を背へ押しやり、守るようにった。
「すみません。あんたにあげられるものは何もない。帰ってください」
里子はすぐに理解した。
彼は里子だと気づかないふりをしている。
こんな姿を、母親に見られたくなかったのだ。