"橋の下で見つけた孫" 第1話
の午の陽は、どこかけだるく、そして優しかった。
夫・正の3回忌を鎌倉の自宅で終えたばかりの鈴里子は、まるで何かから逃げるように、この温泉へ1で旅に来ていた。
借りた旅館の部はこぢんまりとしていたが、さなバルコニーからは浴姿の観客がき交う賑やかな通りが見ろせた。スーツケースを部の隅に押しやると、里子はしばらく畳のに座り込んだ。
くから流れてくる演のメロディと、観客の楽しげな笑い声が混じりっていた。
「を癒すための旅なのよ」
里子はそう自分に言い聞かせた。
誰もいなくなった鎌倉ので、正の遺と2きりで過ごす々は、あまりにも苦しかった。夫と共に守ってきた菓子「甘鈴」も、今は里子1の気力だけでは回らなくなっていた。
かつては正がの方針を考え、息子の剣太が力仕事を伝い、孫の美咲がその周りを笑いながらり回っていた。
あの温かい々は、もういのようだった。
里子はハンドバッグ1つを持ち、旅館をた。湯のりが混じった潮が頬を撫でる。産物が並ぶ通りを抜けると、さな広にた。央にはささやかな噴があり、その周りに造りのベンチが置かれている。
里子はそこに腰をろし、く々をぼんやりと眺めた。
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けれど、見らぬ々の笑顔のに、の空を埋めるものはなかった。
3、里子のは音をてて崩れ落ちた。
嫁のゆかりが流した嘘の涙を、息子の剣太は信じた。
「あんたみたいな母親は、もういらない」
実の息子から浴びせられたその言葉は、今も里子の胸に突き刺さったままだった。
剣太はゆかりと、当まだ3歳だった美咲を連れてをてった。そして数週、ゆかりから方にメッセージが届いた。
「オーストラリアに移します。さようなら」
それきり、何の音汰もなかった。
里子は買ったばかりのアイスクリームを運び、そのたさで胸の痛みをごまかそうとした。
そのだった。
線が、噴の向こうの暗い角に吸い寄せられた。
そこに、さな女の子が1うずくまっていた。古びて固くなった布の形を、さな腕で力いっぱい抱きしめている。痩せこけた体、埃にまみれた裸、汗で張り付いた髪。観のるさから切りされたように、その子だけがのにいた。
の物乞いの子のように声をげるわけでもない。
ただ静かに座り、きなしい瞳で、々が通り過ぎるのを見つめていた。
くを通った若いカップルの女性が、に持っていたクッキーのかけらを落とした。女はそれを見つめた。欲しそうに、けれど誰かに見られることを恐れるように、しばらくかなかった。
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やがて、女は面をうようにづき、そのかけらを拾った。丁寧にを払い、破れた着のポケットにそっとしまい込む。
その仕が、針のように里子の胸を刺した。
もう見ていられなかった。
里子はべかけのアイスクリームをくのゴミ箱に捨て、数軒先のパンへで向かった。焼きたてのクリームパンを2つと、パックのりんごジュースを買い、広に戻る。
女のにしゃがみ込むと、里子はできるだけ優しい声で話しかけた。
「お嬢ちゃん、これ、よかったらべて」
女はびくりと肩を震わせ、里子を見げた。
その瞳はきく、真っ黒で、怯えた物のような警戒に満ちていた。
里子は袋をそっと差しした。
その瞬、女の線と里子の線が交わった。
女の目のすぐ。注しなければ気づかないほどさなほくろがあった。
それは、剣太とまったく同じ所にあるほくろだった。
里子は喉の奥で空気が詰まるのをじた。胸をわし掴みにされたような息苦しさが広がる。
私の孫はオーストラリアにいる。
両親と緒に、自由なく幸せに暮らしているはず。
そう何度も自分に言い聞かせた。
けれどパンを差しす里子のは、刻みに震えていた。
女は瞬ためらったあと、細いを伸ばして袋を受け取った。さくたい指先が、里子の指に触れる。
そして女は、かすれた声で言った。