"赤城山に消えた幸" 第3話
「よかったらべてください」
幸は受け取ったが、表は控えめだった。
「ありがとうございます」
そう言ったものの、彼女の線はすぐに別の方向へ向いた。
田の表が、瞬だけくなった。
ほんのい変化だった。
だが、隣にいた子は見逃さなかった。
田が幸のことを特別に気にかけている様子は、以から何度か見られていた。の会員たちも、その空気には気づいていた。
昼の、田は幸の隣にぴったりと座り、何か話したそうにしていた。だが幸は、必以に親しげな態度を取らなかった。
午1、休憩を終えたは再び発した。
ここから頂までは、あと2ほどの距だった。は次第に急になり、会話を続ける余裕もなくなっていった。
幸は息をえながら、歩ずつ登った。額に汗がにじみ、袋のの指がしえた。だが、頂がづくにつれ、彼女の顔には満そうなるさが戻っていた。
午3、は黒檜の頂に到着した。
標1828mのさから見ろす町の景は壮観だった。気が良く、くまで見渡すことができた。
頂できの儀式が始まった。
佐藤会が祝を読みげ、会員たちは静かに目を閉じた。1の全な登を祈願する、青峰にとって切な儀式だった。
その、本酒をしずつ酌み交わし、祝いの言葉が交わされた。
広告
会員たちの表はるく、頂の空気には達成が満ちていた。
記写真も撮られた。
26全員が集まり、頂の標識ので並んだ。幸は列の央にち、し照れたように笑っていた。
それが、彼女の最の写真になるとは、誰もらなかった。
午4、が始まった。
登ってきたとは別のコースを使い、赤の入くにある堂で打ちげをする予定だった。
会員たちは温かい料理と酒を楽しみに、軽い取りでを始めた。
その、田健が幸にづいた。
「し話があるんです。ゆっくりりながら話しませんか」
幸は瞬、迷うように田を見た。
だが、周囲には会員たちがいた。田は登リーダーであり、危険な物だとは誰もっていなかった。
幸はさくうなずいた。
「分かりました」
2は自然に、の最尾へとがっていった。
コースは、途でが似たように分かれる所があった。
はのへんだ。先の会員たちは元を見ながら歩き、ろの様子を何度も確認することはなかった。
子が度だけ振り返った、田健と幸が並んで歩いているのが見えた。2は何かを話しているようだったが、距があったため内容までは聞こえなかった。
その、2の姿は々の向こうに隠れた。
誰もく気にしなかった。
広告
田は登リーダーだった。彼が緒なら、遅れていても配ない。誰もがそう考えていた。
午530分頃、ほとんどの会員が打ちげの所である堂に到着した。
そこは赤の入くにある郷料理のだった。会員たちは疲れた体を子に預け、着を脱ぎながら席に着いた。
しかし、やがて1つの違がまれた。
幸の姿がない。
そして、もう1。
登リーダーの田健も、まだ到着していなかった。
最初は誰も刻には考えなかった。2はゆっくりりてきているのだろう。元を慎に見ながら歩いているのかもしれない。
会員たちは先にみ物を注文し、雑談しながら待った。
だが、1が過ぎても2は現れなかった。
佐藤会の顔が次第にくなっていった。
午630分、堂のドアがいた。
入ってきたのは田健だった。
だが、その様子は普通ではなかった。
顔は汗で濡れ、のあちこちにがついていた。呼吸も荒く、どこか落ち着きがなかった。
佐藤会は子からちがり、すぐに田へ歩み寄った。
「田さん、どうしてこんなに遅れたんですか。さんは?」
田は肩で息をしながら答えた。
「りる途で首をしひねってしまって……途で休んでいたんです」
佐藤会は眉をひそめた。
「さんは?」
田は息をえ、線をしした。
「幸さんですか。私より先にりていきましたよ」
会員たちは顔を見わせた。
先にりたなら、ここにいるはずだった。