"退職金を狙った夫" 第4話
それでよろしいですね」
子はゆっくりペンを持った。
38、こので夫のワイシャツにアイロンをかけた。弁当を作り、を守ってきた。その同じで、今度は自分の未来にサインをした。
事務所に、ペン先の静かな音が響いた。
夕方、に戻ると、昭雄が先に帰っていた。
「協議はどうした?サインしたか?」
畳みかけるように聞いてきた昭雄に、子は静かに向き直った。
「しがかかりそうだから、待っていてね」
それだけ言って、キッチンへ向かった。
昭雄は何か言いたそうだった。けれど言葉が続かなかった。
翌朝、昭雄の元に1通の封筒が届いた。差欄には、見らぬ弁護士事務所の名がかれていた。
をいた昭雄の顔が、瞬で変わった。
財産分与請求および分割申請のご通。
退職2,000万円の半額。慰謝料。38分の分割。
昭雄の描いた完璧な計画は、音をてて崩れった。
そして子はその朝も、いつもと変わらず朝を作っていた。
面が届いた翌、昭雄は朝にもをつけず、斎に閉じこもったままてこなかった。
子は何も聞かなかった。いつも通り器を片付け、洗濯物を干した。窓のには穏やかな差しがあった。けれどのには、張りつめた空気が漂っていた。
昼頃になって、昭雄がようやくリビングに現れた。
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には弁護士から届いた面を握っていた。
「これはどういうことだ」
い声だった。
子は振り返らずに答えた。
「面を読んでいただければ分かるといますけど」
「そんなことができるわけがないだろう。俺が全部稼いできたんだ」
子は洗い終えた皿を布巾で拭き、ゆっくりと向き直った。
「全部あなたが稼いできた。そうね。では、私はこの38、いったい何をしてきたとう?」
昭雄は黙った。
「俺は弁護士に相談する」
「もう、していますよ」
子の言に、昭雄の顔が固まった。
その、昭雄は自分の弁護士に連絡を取った。けれど返ってきた言葉はたかった。
「残ながら、この請求を止めるてはほとんどありません」
数、昭雄は職の輩にも相談してみた。
「定に、こういう話になってしまってな」
言葉を濁す昭雄に、輩は困った顔をした。
「それは厳しいですね。財産分与は婚姻の共財産が対象ですから、退職も含まれますよ」
昭雄は返す言葉がなかった。
付きいのある同僚にも話した。けれど「気の毒に」とは言われても、誰1、昭雄の側につはいなかった。
帰り、いつも乗るの窓に自分の顔が映った。部として38勤めげてきた男の顔が、見たことのないほど頼りなく見えた。
契約したばかりの1LDKのアパートに、昭雄が初めて1でを踏み入れたのは夕方だった。
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6畳の部に、段ボールが3箱。それだけだった。
気をつけないまま、昭雄はしばらく壁にもたれて座っていた。誰かに話しようとして、スマホをに取った。けれど指が止まった。かけられる相が1も浮かばなかった。
定は何もかも自分のい通りになるはずだった。その自信は、今この暗い6畳の部ので、どこにも見当たらなかった。
昭雄は膝を抱えたまま、その夜がけるのをただ待っていた。
その頃、子は娘の敬子と話で話していた。
「お母さん、最どう?声がしるくなった気がするよ」
「そうかしら」
子は笑った。
窓のには夕焼けが広がっていた。こんなに綺麗だと気づいたのは、いつぶりだろうとった。
それでも子には、これからやらなければならないことがあった。まだ片付いていない続きが残っていた。子供たちへの説もある。活の見直しも始まったばかりだった。
次のを考えながら、子は受話器を置いた。
婚が正式に成したのは、昭雄の定退職から3週のことだった。
区役所の窓で類が受理された瞬、子は特別なを期待していたわけではなかった。泣くのか、るのか、それとも肩の荷がりるのか。自分でも分からなかった。
けれど、区役所をた子のは、来たを迷わず歩いていた。
泣く理由も、る相も、今さらどこにもなかった。ただ、自分のが静かにのに戻ってきた覚だけがあった。