"消えた3506号室" 第6話
級マンションの広々としたリビングから、今は弓が昔使っていた6畳の子ども部。
国から獄へ落ちたような変化を、拓也は受け入れられずにいた。
「どうして親父は、急にあんなことを……」
拓也は何度も同じ言葉を繰り返した。
彼らはまだ、自分たちの嘘が見したとはにもっていなかった。
がかりを求め、拓也は父の妹である叔母の子に話をかけた。子は芝でを営んでおり、秀夫とは頻繁に連絡を取りっていた。
「もしもし」
るい声が聞こえた。
「あ、おばさん。俺、拓也だけど」
「拓也? あなた今どこにいるの? 本にいるの?」
子の声が急に変わった。
「うん。今、本にいるけど……」
拓也がのことを切りそうとした瞬、話の向こうで子が息を呑んだ。
「拓也、あんた本当に何もらないのね」
声はりに震えていた。
「何を……」
次の瞬、子のが爆発した。
「おたちが、おたちがお母さんの病だの阪張だの真っ赤な嘘をついてヨーロッパで浮かれている、兄さんはたった1でにかけてたんだよ!」
拓也は言葉のが理解できなかった。
「おばさん、何言ってるんだよ。親父は元気だったじゃないか」
「元気なわけないでしょう! 兄さんは末期の肺がんだったのよ。余命半だって。あんたの父親は、もうくきられないのよ!」
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肺がん。
余命半。
拓也のを、巨なハンマーで殴られたような衝撃が襲った。携帯話をに当てたまま、そのに崩れ落ちる。弓も顔から血の気が引き、両でを覆った。
「最の誕になるかもしれないから、そのにあんたに全部打ちけるつもりだったんですって。それなのにあんたたちは、そんな事なに父親を騙して旅にってたなんて。あんたたち、それでもなの!」
話が切れたも、拓也はけなかった。
父から奪ったものは、やだけではなかった。
父の最の。
それを自分たちは踏みにじったのだ。
拓也のに、これまでの父の姿が次々と浮かんだ。
毎朝、見向きもしなかった温かい朝。
「たまにはわしも緒に旅に連れてってはくれんか」と慮がちに言った父。
70歳の誕を楽しみにしていた父の笑顔。
「親父を探さなきゃ」
拓也はよろめきながらちがった。
子が最に言っていたことをいす。
「昔、兄さんが伊豆に仲の良い友達がいるって話していたわ。民宿をやってる田さんとか言ったかしら」
田賢介。
子どもの頃、休みによく遊びにった民宿の主だ。
拓也はネットで「伊豆 民宿 田」と検索した。いくつかの候補のに、見覚えのある板の写真を見つける。
「ここだ」
弓も頷いた。
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2はすぐにへ乗り、伊豆へ向かった。
夕暮れのが、フロントガラスをオレンジに染める。そのが、父の命の残りのように見え、拓也はアクセルを踏むに力を込めた。
が沈みかける頃、は伊豆のさな漁港町に着いた。
塩のりが、ぬるいに混じって内へ流れ込む。丘のに、古びた軒が見えた。
民宿田。
錆びついた板は、子どもの頃に父の肩から見たものと同じだった。
拓也は震えるで玄関へ向かった。引き戸ので呼吸し、をげる。
「ごめんください」
数秒の沈黙の、戸がいた。
っていたのは、髪のの良さそうな老だった。田賢介だった。
田は拓也の顔を見るなり目を見き、その表をしみと静かなりに変えた。
「拓也君か。きくなったな」
「おじさん、父は……親父はここにいますか?」
田は何も言わず、横へずれて2をへ招き入れた。
通された奥の縁側に、子へ腰かけてを眺める痩せ細った背があった。
拓也は息を呑んだ。
父は、数かとは別のようにさくなっていた。折、苦しそうに咳き込む背が、拓也の胸を締めつける。
「秀夫、拓也君たちが来たぞ」
田が声をかけると、秀夫はゆっくり振り返った。
その顔には、何のも浮かんでいなかった。ただ、いものを見るような虚ろな目で、息子夫婦を見つめていた。
拓也は崩れるように膝をついた。
「親父、ごめんなさい。本当にごめんなさい」
額を畳に擦りつけ、ただ謝った。
弓もろで座し、泣きながら言った。