"消えた3506号室" 第5話
そんな結末が、自分のの締めくくりで本当にいいのか。
いや、断じて違う。
秀夫はゆっくりと体を起こした。
「俺が築いたものを、あいつらに1円たりとも渡してなるものか」
その声はさかった。
しかし、その決は鋼のように固かった。
夜けの午4。
いつもなら汁の準備を始めるだった。だがその、秀夫はキッチンには向かわなかった。
リビングの子に座り、古いノートパソコンの源を入れる。慣れなつきでキーボードを打ち、港区の産相を検索した。
画面に表示された数字を見て、秀夫は息を呑んだ。
3に1億1000万円で購入したこのタワーマンションの査定額は、現1億5000万円を超えていた。京の産価格は、この数でさらに騰していたのだ。
拓也夫婦が、当然のように自分たちのものになると信じ込んでいるであろう。
そのすべてが、もなくになる。
午9。秀夫はポストに入っていた所の産仲介業者のチラシを取りし、そこにかれていた番号へ話をかけた。
「もしもし。私、岸通りのタワーマンションにむ井と申します。3506号の売却の件で相談したいのですが」
若い営業のるい声が返ってきた。
秀夫はその言葉を遮るように、く、はっきり告げた。
「条件は1つです。とにかく至急で売りたい。
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価格は相よりがっても構いません」
1、秀夫はマンション1階にある産仲介業者のオフィスにいた。と名乗る男は、秀夫の話を聞き終えると真剣な顔で頷いた。
「これだけの好の物件です。価格をしげて専任媒介でせば、1週もかからず買いは見つかるでしょう」
「それでお願いします」
秀夫は、あらかじめ用していた権利証と実印をテーブルに置いた。
そして運命の曜の朝が来た。
拓也と弓は、それぞれきなスーツケースを引いてリビングに現れた。
「じゃあ親父、ちょっと阪ってくるわ」
「お義父さん、お母さんのことよろしくお願いします。なるべくく帰ってきますから」
2は、何のためらいもなく嘘をにした。
秀夫はりを押し殺し、いつものの良い父親の顔で微笑んだ。
「ああ、気をつけてな。2とも体にだけは気をつけるんだぞ」
玄関のドアが閉まる。
2の音がざかる。
その音を聞き届けた瞬、秀夫の顔から表が消えた。
やがて、息子夫婦を乗せたが本の空から消えた頃、3506号では秀夫の計画が最終段階へんでいた。
物件はにるなり問いわせが殺到した。最初に内覧へ来た若い夫婦が、そので購入を希望し、現括払いを申した。契約は異例の速さで成した。
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決済が完した、秀夫はがらんとしたリビングの真んにっていた。
3暮らした空。
たい朝。
無された会話。
そして残酷な裏切り。
そこにはもう、何の未練もなかった。
秀夫の荷物は驚くほどなかった。さなボストンバッグに数の着替えと洗面用具、そしてき妻の位牌。それだけだった。
ダイニングテーブルのに、拓也宛てのい封筒を置く。
しいには、息子が訪ねてきたら渡してほしいとだけ伝えてあった。
準備を終えた秀夫は、携帯話を取りした。
田賢介。
伊豆でさな民宿を営む、数ないを許せる旧友だった。
「もしもし。田か。俺だ、井だ」
「おお、秀夫じゃないか。どうしたんだ、急に」
秀夫は、妻をくしたこと、息子夫婦との同居、今回の裏切り、そしてを売ったことを話した。ただし、自分の病気だけは伏せた。
田はしばらく黙ったあと、く息を吐いた。
「分かった。何も配するな。うちのれが空いてる。好きなだけ使え。が見えて静かでいいぞ」
「すまん、賢介。恩に着る」
「くさいこと言うな。俺たちは友達だろう」
秀夫の目から、涙が1筋こぼれた。
その、秀夫は携帯話の源を切り、SIMカードを抜いて捨てた。
息子夫婦からの連絡を受け取る気は、もうなかった。
きを失った拓也と弓は、弓の実に転がり込んだ。
事を正直に話すことはできず、「のリフォームでしばらくめなくなった」と苦しい嘘をついた。弓の両親は驚きながらも2を受け入れたが、その優しさが、かえって拓也の罪悪を増幅させた。