"消えた3506号室" 第4話
初めてのヨーロッパ。特にパリのエッフェル塔、絶対に見たいんだから」
ヨーロッパ。
秀夫は壁にをつかなければ、そのに崩れ落ちていた。
涙の告も、配するそぶりも、すべてが豪華なヨーロッパ旅にくための芝居だった。
そして何より秀夫を絶望させたのは、息子の拓也までもが、その嘘に加担していたことだった。
自に戻った秀夫は、ベッドに倒れ込んだ。たいシーツの触だけが、これが悪ではないと告げていた。
その、3かの記憶がよみがえった。
拓也が、今70歳になる秀夫の誕を祝いたいと言ってくれただ。
「親父、30ものために飯を作ってきたんだ。1度くらい最の所で最の料理をわってほしいんだよ」
弓も笑顔で言った。
「座の名な懐料理のおを予約しました。個だから、ゆっくりお祝いできますよ」
秀夫はそのを待ちにしていた。
だが、カレンダーを見た瞬、息が止まった。
その誕は、2がヨーロッパで浮かれている期の真んにあった。
約束は、忘れられていた。
いや、最初から守る気などなかったのかもしれない。
そして息子夫婦は、もっとなことをらなかった。
秀夫が、その誕にどうしても息子へ伝えなければならない、最の秘密を抱えていたことを。
息子夫婦の裏切りをる数週から、秀夫は2か以続く咳に悩まされていた。
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最初は邪のぶり返しだとっていた。販の薬をみ、を取れば治りも遅くなると自分に言い聞かせていた。
だが咳は収まらず、夜に激しく咳き込んで眠れないも増えていた。胸の奥に、常に何かがつかえているような圧迫もあった。
「1度、きな病院で精密検査を受けてください」
所の内科医は、秀夫の胸の音を聞くと厳しい表でそう告げた。
紹介された総病院で、レントゲン、CT、血液検査を受けた。結果がたのは1週だった。
診察で、医師はカルテとパソコン画面を見比べながら々しくをいた。
「井さん、検査の結果がました。残ながら、あまり良くないらせです」
医師はCT画像を秀夫の方へ向けた。
「ここにいがいくつも見えるでしょう。肺にできた腫瘍です」
「肺がん……ですか」
その言葉は、い国の来事のようにを通り過ぎた。
「かなりしています。ステージ4です。すでにリンパ節やの臓器にも転移が見られます」
秀夫はかすれた声で尋ねた。
「先、私はあとどのくらい……」
「積極な治療をえば1ほど。治療を望まれないは、半ほどと考えてください」
半。
その瞬、秀夫の世界から音が消えた。
どうやって病院をたのか、記憶は曖昧だった。気づけば、待のい子に座り込んでいた。
に帰るバスの窓から、流れていく町を眺める。
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く々は、笑ったり話したり、当たりの常をきている。その景が、別の世界の来事のようにじられた。
そうだ。
拓也に話そう。
秀夫はに決めた。
自分の残りない命のこと。そして、このタワーマンションや貯といった遺産のこと。誕のあの特別なにすべてを打ちけ、残りのをどう過ごすか息子と相談しよう。
1で抱え込むには、という現実はあまりにもすぎた。
だが、その矢先に、あの裏切りをった。
自分がの恐怖と孤独に震えている方で、息子夫婦はヨーロッパ旅の計画に胸を躍らせていた。
その夜、秀夫はベッドので、これまでの69をい返した。
ラーメンを始めたのは、拓也がまだ学にがるだった。族を養うため、毎朝4に起き、で煮干しと豚骨を仕入れた。夜は警備員の仕事までして、ほとんど眠らずに働いた。
最のゲームも、価なスニーカーも、拓也にねだられれば1度も断らなかった。
名私学に格した、妻とを取りって泣いた。入学、学費、暮らしの仕送り、すべて文句も言わずに払い続けた。結婚資として500万円も渡した。
も労力もも、息子のために捧げ尽くしてきた。
その息子が、今、自分を裏切っている。
秀夫の胸に、静かでたいがともった。
このまま何もらぬふりをして、孤独な部でんでいく。