"消えた3506号室" 第3話
のに惚れ込んだ若い夫婦がを継ぎたいと申してくれたのだ。
そして、妻との婚代から暮らした古い造宅。隣の再発計画のおかげで、予以の値がつき、6000万円で放すことができた。
わせて1億円。
それが秀夫の全財産だった。
そこに拓也夫婦が持っていた貯1000万円をし、港区の築タワーマンションを1億1000万円で購入した。
契約の、産会社の担当者が尋ねた。
「マンションの名義はどなた様になさいますか?」
秀夫が拓也を見ると、息子は迷いなく言った。
「もちろん親父の名でお願いします。ほとんど親父がしてくれたおなんですから、当然ですよ」
弓も隣で頷いた。
「お義父さんのものですから」
秀夫は胸がくなった。
なんてできた息子夫婦だろう。
自分はなんて幸せ者なのだろう。
そう信じた。
だが、その信頼こそが、やがて秀夫をく暗い奈落へ突き落とすことになる。
同居から1が過ぎた頃、秀夫はこのに、自分だけを隔てる見えない壁があることに気づき始めた。
族旅はいつも、秀夫のらないところで決まり、決定事項として告げられた。
「来、私たち沖縄にくことになったんです」
あるの夕、弓がるく言った。
「沖縄か。いいじゃないか」
秀夫が相槌を打つと、弓はし言いにくそうに続けた。
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「私の父の祝いで、うちの族だけでくことになりまして」
うちの族。
そのに、自分はいない。
それでも秀夫は笑った。
「そうか。楽しんでくるといい」
その翌は、弓の母親の還暦祝いでへった。そのも秀夫は「寒い所に連れていくのは忍びない」という理由でに残された。
1度だけ、秀夫は拓也に尋ねた。
「たまには、わしも緒に旅に連れてってはくれんか」
拓也は面倒くさそうに答えた。
「親父がいると、弓が気を使うだろ。たまの旅くらい羽を伸ばさせてやりたいんだよ」
その言葉以来、秀夫は2度と旅の話をにしなくなった。
その夜の卓は、珍しくやかだった。
秀夫が腕を振るった豚汁のりがリビングを満たしている。拓也は「今の豚汁、うまいな」と珍しく褒め、弓も笑顔を見せた。
「お義父さんの作るは、本当にほっとします」
その言葉だけで、秀夫のは温かくなった。
やはり、自分たちは族なのだ。
そう信じたかった。
秀夫が米をへ運んだ、弓が箸を置いた。顔には刻な表が浮かんでいる。
「あの、お義父さん」
拓也と秀夫が同に顔をげた。
弓は唇を結び、震える声で告げた。
「実は、実の母が乳がんの診断を受けまして」
リビングの空気が凍った。
「それは変じゃないか。容態は?」
秀夫がを乗りすと、弓は俯いた。
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「ステージ3だそうです。すぐに術と抗がん剤治療を始めるようにと言われました」
拓也が驚いたようにちがり、弓の肩を抱く。
「術はいつなんだ?」
「来週の曜です。それで、お義父さん、お願いがあるんです。術の、しばらくは付きっきりの病が必になるそうで、私が実に戻って母のそばにいてあげたいんです。最でも2週は」
秀夫はすぐに頷いた。
「当たりだ。ってやれ。お母さんも細いだろう」
すると拓也が困った顔をした。
「親父、本当に偶然なんだが、俺も来週から阪で2週の期張が入ってしまって。規のちげで、どうしてもせないんだ」
あまりにも都の良い偶然に、秀夫はほんのし違を覚えた。
だが、まさかすべてが嘘だとはわなかった。
その夜、秀夫は夜にトイレへ起きた。廊を歩くと、寝のドアがわずかにいている。から弓のひそひそ声が聞こえた。
実の父と話しているのだろうか。
そうい、を止めた瞬、信じられない言葉がにび込んできた。
「うん、お母さん。旅の準備はばっちり。航空券もホテルも全部確認したから」
秀夫の臓が嫌な音をてた。
旅。
病ではなかったのか。
「丈夫。お義父さん、全然気づいてないから。お母さんが乳がんって話、すっかり信じ込んじゃってるし。
拓也さんの阪張っていうのも完璧なアリバイよ」
話の向こうの相と、弓は楽しそうに笑っていた。
「ああ、本当に楽しみ。