"多摩川に沈んだ食堂" 第6話
困ってる弟を見捨てられるかい」
オンスクはの儲けを削ってでも、男にを渡していた。けれど元々、ぎりぎりの商売である。そんなことを続けられるはずがなかった。
「オンスクさんも、だんだん追い詰められていったんだ」
宮本は帳の最の言葉をいした。
もうない。これ以はせない。
「失踪のしのことだ」
野は声を落とした。
「夜、の奥でオンスクさんとその男がひどく言い争っているのを聞いた者がいる。男が鳴って、オンスクさんも必に言い返していた。あんなに声を荒げたオンスクさんを聞いたのは、にも先にもあれっきりだったってな」
宮本は、野に問いかけた。
「なぜ、町のたちはこのことを黙っていたんです」
野はい答えなかった。しわだらけのを膝ので固く握りしめていた。
やがて、ぽつりと言った。
「あの子も、かわいそうなのだったからさ」
「男が、ですか」
「そうだよ。オンスクさんと同じなんだ。の国から命からがら逃げてきて、本に来ても寄りもなく、まともな仕事にもありつけず、気の毒な若者だった」
野の声は震えていた。
「オンスクさんはいつも言ってたよ。あの子は悪い子じゃない。ただ運が悪かっただけだって」
町の々は、オンスクのその気持ちをっていた。
もし男がオンスクに何かしたとしても、それを暴きてることが、本当にオンスクの望みだったのか。
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誰よりも男をれんでいたのは、オンスク自ではなかったのか。
そんな複雑ないが、町ぐるみの沈黙をんでいた。
「黙っていたことを責められても仕方ない」
野は目に涙を溜めて言った。
「でも、あんたがまだ調べてくれてるって聞いて、正直ほっとした。このまま何も分からないまま終わるのが、ずっと残りだった。オンスクさんに申し訳なくてな」
そのの帰り、宮本と藤はもう1の常連だった老を訪ねた。
彼は当、「オンスクが何かに怯えていた」と証言した物だった。
古い団の3階で、老は2を迎えた。
「オンスクさんがをく閉めるようになったのは、あの男が来るのを避けていたんじゃないかと、わしはっとった」
老は湯呑みの茶をゆっくりすすった。
「夕方になると、まだ客がいるのに、そそくさと簾をしまってな。落ち着かない目で表をうかがってた。あれは誰かが来るのを怖がっている目だった」
「何か言っていましたか」
藤が尋ねた。
老はい目をした。
「最に会った、1度だけぽつりと言ったよ」
老はさく息を吐いた。
「私がなんとかするしかないの、ってな」
私がなんとかするしかない。
その言葉は、宮本の胸にく突き刺さった。
オンスクは最まで、その男を見捨てなかった。
怯えながらも、追い詰められながらも、自分がなんとかしなければとい続けていたのだ。
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男を探しすのに、ったほどはかからなかった。
野が覚えていたの名と、帳に残されたKの記録。それをがかりに、宮本と藤は、当の国から逃れてきた々を支援していた団体や、古い政記録を1つずつ当たっていった。
が過ぎ、セミの声はいつしか虫の音に変わっていた。
の初め、男の元が判した。
男は今、関の別の県にあるさな町でひっそり暮らしていた。は50をいくつか過ぎている。独りで古いアパートにみ、くので雇いにい仕事をしながら、つましくきていた。
「会いにきましょう」
藤の声には緊張が滲んでいた。
宮本は静かに頷いた。
その町は、野町によく似た寂れた方の町だった。田畑が広がり、そのに古い々が点している。の空はく澄み、刈り入れの済んだ田んぼには稲わらが積まれていた。
男のむアパートは、2階建てのひどく古びた建物だった。壁のモルタルはひび割れ、鉄の階段は赤く錆びていた。
2はきしむ階段をり、1番奥の部のにった。
宮本がドアを叩いた。
しばらくして、ドアがゆっくりいた。
姿を見せたのは、痩せた柄な男だった。髪まじりの髪、落ちくぼんだ目、に焼けてしわのい顔。齢よりもずっと老けて見えた。
宮本が分を告げ、13の野町の堂の女性について話を聞きたいと言った瞬、男の顔がさっと変わった。