"多摩川に沈んだ食堂" 第5話
1万円。
3万円。
また1万円。
帳の半ではぽつぽつとしかてこなかったその記述が、半、失踪にづくにつれてらかに増えていた。
「Kという物にを渡していたということか」
宮本は老鏡を押しげ、帳に顔をづけた。
「しかも、だんだん回数が増えています」
藤が半のページを指でたどった。
「失踪の1かくらいから、ほとんど毎週みたいにてきます。額も増えている」
最の方のページには、Kの横にい圧で母国語の文字がかれていた。
に翻訳を依頼すると、そのが分かった。
「もうない。これ以はせない」
宮本と藤は、しばらく黙り込んだ。
「Kは、オンスクさんにをせびっていた誰かですね」
藤が言った。
「おそらくな」
宮本の声はくなった。
失踪の数週からオンスクが怯えていたという証言。をく閉めるようになったという話。そして帳に増えていくKへの額。
すべてが、1つの方向を指しているように見えた。
2は野町へ向かった。
緑商は13よりもさらに寂れていた。蛍灯はほとんどが切れ、昼でも暗い。オンスク堂のあった所は、もうではなかった。シャッターはりたまま錆びつき、あの赤い簾はどこにもなかった。
ガラス戸にかれた「定」のい文字だけが、かすかに名残を留めている。
広告
宮本はそのでしばらくち尽くした。
13、ここで温かい飯を炊く女性がいた。
今はただ、閉ざされた空き舗だった。
宮本と藤は、商で聞き込みを始めた。
けれど、うようにはまなかった。
オンスクを覚えている古いはまだ何か残っていた。しかし、「李恩淑さんのことで」と切りすと、皆、急にがくなった。
「オンスクさんね。ああ、いいだったよ」
「でも、もう昔のことだからね」
「何もらないよ」
そう言って目をそらす。
藤は歩きながら、宮本に声で言った。
「変ですね。皆さん、オンスクさんのことを覚えているのに、詳しく聞こうとすると急に話さなくなる」
宮本も同じことをじていた。
これはただ忘れているというのとは違う。
何かをっている。けれど、触れたくない。町全体に、そんな沈黙が張り付いているようだった。
鍵になったのは、乾物の野だった。
野はもうを畳み、商のれの古いで暮らしていた。腰は曲がり、顔にはいしわが刻まれていたが、ははっきりしていた。
宮本が13にも聞き込みに来た刑事だと名乗ると、野はじっと顔を見つめた。
「ああ、あんた……あのの」
その声には、かすかな堵がにじんでいた。
宮本は、川から庫が見つかったこと、そのにオンスクの帳が入っていたことを静かに説した。
広告
「彼女は、おそらく自分ので消えたのではありません」
野は目を伏せた。
い沈黙があった。
やがて、絞りすようにをいた。
「あの子のことなんだ」
「あの子?」
「オンスクさんのによく来ていた若い男さ」
宮本と藤はを乗りした。
野はぽつりぽつりと語り始めた。
オンスクのには、1の若い男が入りしていた。は30。オンスクと同じく、の国から逃れてきた者だという。
オンスクはその男を、まるで弟のようにがっていた。同じ苦労をし、同じ国から命がけで逃げてきた数ない同胞。異国ので寄りもなくきる者同士、オンスクにとってその男は族同然のだった。
「オンスクさんは、その男のことをいつも気にかけてたよ。飯をわせてやったり、遣いを渡してやったり、本当の弟みたいに面倒を見てた」
「名は分かりますか」
藤が尋ねた。
野はし考え、の名をにした。
その名を聞いた瞬、宮本ので、帳のKという文字と音がなった。
ただ、野の話には続きがあった。
「その男が、いつの頃からか変わっちまったんだ」
男は仕事がうまくいかなくなり、借を抱えるようになった。最初は慮がちだったが、やがてオンスクのに来ては、を無するようになった。
「オンスクさんは断らなかったんですか」
藤が尋ねた。
「断れるもんか」
野は力なく首を振った。
「あの子は、オンスクさんにとっちゃ、たった1の内みたいなもんだ。