"多摩川に沈んだ食堂" 第3話
オンスク堂はシャッターをろしたまま、商の真んに取り残された。褪せた赤い簾だけが、軒先でいつまでもに揺れていた。
誰もそれをそうとはしなかった。
してしまえば、本当にオンスクがいなくなってしまう気がしたからだ。
野はのを通るたびにを止めた。
「オンスクさんよ。体どこへっちまったんだ」
返事をする者はない。
ただ、簾だけがに揺れていた。
それから13の歳が流れた。
2014。代はすっかり変わっていた。携帯話は誰もがにするい板になり、そのさな画面ので々は世界とつながるようになっていた。
野町の坂のにあったスーパーマーケットも、さらにきな郊型舗に客を取られ、かつての勢いを失っていた。緑商に至っては、いているの方がもう数えるほどしかなかった。
それでも、摩川だけは昔と変わらず流れていた。
野町の側を、摩川がゆったりと流れている。川敷にはが青々と茂り、では子どもがボールを蹴り、犬を連れた老が散歩していた。セミの声が、むっとした空気を震わせていた。
その川敷の角で、護岸補事がわれていた。のたびに川のがをえぐるため、コンクリートで岸を固め直す事だった。
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が唸りをげ、を掘り返していく。汗だくの作業員たちが、そので働いていた。
7のよくれた昼がりのことだった。
の爪がので、何かにガツンと当たった。
「おい、止めろ」
作業責任者がをげ、を止めた。
掘りされたのに、角い錆びついた塊が半分ほど顔をしていた。作業員たちがスコップで周囲のをどけていく。
それはさなげ庫だった。
抱えほどのの鉄の箱。いのにあったらしく、全体が赤茶けた錆に覆われ、角は腐して欠けていた。持ちだけが、かろうじて原型をとどめていた。
「なんだ、これ。誰かが捨てたのか」
作業員の1が首をかしげた。
「、入ってるんじゃないか。やけにいぞ」
鍵はかかっていたが、錆びついた蓋は、具でこじるとあっけなくれた。
からてきたものを見て、作業員たちは顔を見わせた。
赤く錆びた鍵が1つ。
それから、ビニール袋に何にも包まれたものがあった。袋はのみでひしゃげ、半ばにまみれていたが、はかろうじてを防いでいた。
ビニールをくと、1冊の古い帳がてきた。
茶い表は湿気でふやけ、ところどころに染みができていた。だがページはまだめくることができた。細かな文字がびっしりとき込まれている。
そして、その帳の最初のページに、持ち主らしき名があった。
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達とは言えない。けれど、字字を丁寧にいた、たどたどしい跡だった。
李恩淑。
事現からの届けを受け、所轄の警察署がいた。
元の庫。そのから見つかった、の名が記された帳。川敷に埋められていたという審な状況。
担当者が記録を照したところ、いがけないことが分かった。
李恩淑。
その名は、13に方となった1の女性のものだった。
報告は刑事課にげられ、やがて1のベテラン刑事の机のに置かれた。
宮本という名の刑事だった。
宮本は59歳。あと半で定を迎えるだった。髪はすっかりくなり、く刻まれたしわとし丸くなった背が、の勤めのみを物語っていた。
物静かで数のない男だった。柄をてて昇しようという野はもうなく、ただ黙々と与えられた仕事をこなしてきた。若い刑事たちからは「もう先のないおじいさん」とで軽んじられることもあった。
その宮本が、報告の名を見てを止めた。
「李恩淑……」
その名には覚えがあった。
13、宮本はまだ40代半ばで、別の係にいた。オンスク堂の女性の捜索に、末端の1としてわずかに関わっていたのだ。
聞き込みに歩いた古い商。褪せた赤い簾。捜査が打ち切られていくの、あのの悪さ。
宮本は目を閉じた。
当、捜査会議の席で司が言った言葉が、今もに残っている。
「ああいうのだ。