"5500億を動かした手" 第5話
あの朝、面に膝をつき、必に声をかけてくれた顔と同じ目だった。
「防犯カメラ映像も入しました」
画面が切り替わる。
黒の映像ので、スーツ姿の若い女性がロータリーへ駆け寄る。迷いなく膝をつき、着を脱いで倒れた男性ののに敷く。救急を呼び、到着するまでの30分、ずっとを握っている。
島は画面を見つめたままけなかった。
「救急隊員への引き継ぎを終えてりしたのが825分。支到着が835分。遅刻はわずか5分です」
の声もかった。
「命救助による5分の遅刻です。救がなければ、余裕を持って到着していました」
島はく息を吐いた。
「の朝1番で梅ヶ丘支へく」
「KTキャピタルのオーナーとして、ですね」
「ああ。まず筋を通す」
翌朝9ちょうど、梅ヶ丘支の正面に、黒塗りのセダンが3台静かにした。
先のからりった島達也は、とは別のようだった。質なダークネイビーのスーツ。控えめだが品のあるシルクのネクタイ。穏やかな表の奥に、揺るがぬ威厳が宿っていた。
続のからは、、顧問弁護士、公認会計士がりてきた。
島たちが自ドアをくぐると、ロビーの空気が変した。
受付の員が名刺を受け取り、顔を凍らせる。震えるで内線を入れると、1分も経たないうちに昼がびしてきた。
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「島様でしょうか」
昨、さえない客として追い払おうとした男。
その正体に気づいた昼の顔が、みるみる張っていく。
「KTキャピタルの島です。昨は名乗らず失礼した」
KTキャピタル。
その名がするものを、支である昼がらないはずはなかった。
5500億円。
この支の預総額の約4割を占める、桁れの資を持つグループ企業だった。
昼は慌てて笑顔を貼りつけた。
「昨は変失礼いたしました。どうぞ特別応接へ」
「ち話で済む用件だ」
島は静かに告げた。
「本をもって、KTキャピタル名義の全座から、全額を移管する続きを始したい。5500億円。1円残らずだ」
昼の顔から、笑みが剥がれ落ちた。
「ぜ、全額とおっしゃいますと……5500億円を全額でございますか」
「そうだ。全額だ。続き類はすべてえてある」
「お待ちください。何か当支のサービスにご満がございましたか。利の特別優遇も、専任担当の配置も、なんなりと……」
「条件の問題ではない」
島の声はく、かった。
「昼支。先この支で、1の若い女性が解雇されたな。初勤で5分遅刻したという理由で」
昼の顔がこわばった。
「使用期の社員の件でしょうか。初から勤務を守れない材では、お客様にご迷惑を……」
「その理由をきちんと聞いたのか」
昼は言葉を詰まらせた。
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島はに目を向けた。
「映像を」
がタブレットを差しす。
映しされたのは、駅で倒れた島を助けるリンカの姿だった。
「この倒れている男が誰だか分かるか」
昼は青ざめたまま、何も言えなかった。
島は静かに言った。
「私だよ。昼支。あの子が命を救ったのは、5500億円を預けているこの私だ」
昼の唇が刻みに震えた。
額には汗が浮かび、顔はのようにくなっていた。周囲の員たちも息をみ、誰も声をせない。
島は続けた。
「昨、あなたは私に言いましたね。言い訳がどれだけ派でも、を守れないはうちにはいらない。あの経歴では最初から違いだった、と」
昼は喉を鳴らした。
「お、お待ちください。すぐにあの社員を呼び戻します。使用期を免除して、本採用に……」
「遅い」
島の声は静かだった。
だが、そこには切の揺らぎがなかった。
「あなたは5分で、あの子のを壊した。の尊厳は、簡単に戻せるものではない」
昼の元が歪んだ。
言葉を返す余裕すら、もう残っていなかった。
が分いファイルをテーブルへ置いた。
「こちらが移管続きの申請類式です。本付けで正式に続きを始いたします」
昼は類を見つめたまま、像のように固まった。
「本部に確認させてください。この規模の移管は私のでは……」
「当然だ。本部には私からも直接連絡を入れる。昨の解雇の経緯についても、この映像を添えて報告させてもらう」