"5500億を動かした手" 第2話
「現支の昼孝介は着任して3ヶです。島さんとの面識はありません」
「そうか。なら、ちょうどいい」
その、はバックミラー越しに島の顔を見た。
「お顔のがし優れません。体調はいかがですか」
「したことはない。最、胸の辺りがいが増えただけだ」
そう言いながら、島のは無識に胸を押さえていた。
はそれを見逃さなかった。
「主治医の先が再、精密検査をとおっしゃっていました」
「分かっている。だが、まだ先でいい」
島は10、妻の千鶴を膵臓の病でくしていた。
莫な資産があっても、分かちう相がいなければ、数字はただの数字にすぎない。朝起きても「おはよう」と言ってくれる声はない。夜帰っても、温かな事が待っているわけでもない。
だからこそ、島は現へを運んだ。
自分の財産が、どんなに管理されているのか。
どんな空気のでいているのか。
この目で確かめなければ、気が済まなかった。
「を止めてくれ。ここからならい。健康のためにもし歩きたい」
「承しました。30分、支のでお待ちしております」
島はをり、駅のロータリーへ向かって歩きした。
たい朝の空気を吸い込むと、胸のさがしらいだ気がした。
しかし、その堵はく続かなかった。
突然、界がきく歪んだ。
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の奥で属音のような響きが鳴り、元から力が抜けていく。
「胸が……」
まずい。
そうった瞬には、膝が折れていた。
島はロータリーのたいタイルのに崩れ落ちた。
々の音が、く聞こえた。
スーツ姿の男が瞬こちらを見たが、面倒ごとに関わりたくないという顔でに通り過ぎた。主婦らしき女性もち止まりかけたが、スマートフォンの着信音に気を取られ、そのまま歩いていった。
たいタイルが背に張りつく。
の朝だというのに、島の体は芯からえていった。
界がぼやけ、識がれかけるで、彼はぼんやりとった。
このまま、誰にも気づかれず終わるのか。
56で築きげた財産も位も、に倒れた自分には何の役にもたない。通勤ラッシュの雑踏のでは、ただのころと同じだった。
千鶴がきていれば、きっと呆れた顔で叱っただろう。
だから検査を受けなさいと言ったでしょう、と。
そんな諦めが胸に広がりかけただった。
温かいが、島の肩に触れた。
「丈夫ですか。聞こえますか。識はありますか」
若い女性の声だった。
必さと優しさが入り混じった、澄んだ声だった。
島がく目をけると、スーツ姿の女性が面に膝をつき、真剣な表で顔をのぞき込んでいた。品のパンプスを履いたを投げし、ためらうことなく両で島の体を支えている。
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「今、救急を呼びます。絶対に丈夫ですから、識を保ってください」
彼女は自分の着を脱ぎ、島ののに敷いた。震える指でスマートフォンを操作し、119番へ話をかける。
「梅ヶ丘駅のロータリーで、50代くらいの男性が倒れています。呼びかけには反応があります」
声は落ち着いていた。
話を切ったも、彼女はそのをかなかった。たくなった島のを両で包み、しっかり握り続けた。
「すまない。君は急いでいるんじゃないのか」
島がかすれた声で言うと、彼女は首を横に振った。
「今はそんなこと関係ありません。救急が来るまで緒にいます」
その言葉に、迷いはなかった。
社交辞令でも、義務でもない。目ので苦しんでいるを放っておけないという純粋なが、のぬくもりから伝わってきた。
島はこれまで、無数のと握を交わしてきた。
取引先の社。
の役員。
政治。
の投資。
けれど、そのどれもが計算と駆け引きのに成りつ儀礼な接触だった。
この若い女性のは違った。
無条件の優しさ。
それが、えた指先へじんわり染み込んでくる。
救急のサイレンがづくまでの30分、彼女はずっとそばにいた。何度か計を確認する仕はあった。急いでいるのはらかだった。
それでも、をさなかった。
救急隊員が到着し、島がストレッチャーへ移される直、彼女は堵したようにく息を吐いた。