"15年無給で働いた若女将を追い出した老舗旅館の末路" 第4話
引き裂かれた約束と最の通告
「何をするの……!」
美里は鳴のような声をげ、ゴミ箱へ駆け寄った。
底から帳を拾いげる。、毎夜遅くに万できしてきた、美里とお客様との絆の結晶。その表は無残に破かれ、インクで汚れたページが無惨に折れ曲がっていた。
「ちょっと、何勝にゴミ箱漁ってんのよ、汚い!」
リナがをつまみ、これ見よがしに退りした。
「汚い……? これが、あなたには汚いものに見えるの!? これは、この宿をして通い続けてくださったお客様たちの、切な歴史なのよ!」
美里は震えるで破れたページを胸に抱きしめ、リナを真っ直ぐに睨みつけた。普段は温で、決して声を荒らげることのなかった美里の気迫に、リナは瞬怯んだように息を呑んだ。
しかし、そのにやってきたが、美里のから引に帳を奪い取ると、へ叩きつけた。
「いい加減にしなさい、美さん!」
バシィン、と乾いた音が板のに響き渡る。
「そんな切れのどこに価値があるっていうのよ! 客なんてものはね、おを落としてくれさえすれば誰だっていいの! 過の寄りの好みをちまちま記録して、なんて無駄なものを送り続けて……そんな暇があるなら、リナちゃんを見習って宣伝のつでもしなさい!」
「お義母さん……! を無駄だなんて言わないでください! あのがあったからこそ、何も欠かさず来てくださるお客様がいらっしゃるんです!」
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「答えするんじゃないよ!」
の平打ちが、美里の頬を鋭く打った。
パチン、とい音が響き、美里の顔が横へ泳ぐ。い痛みが頬に広がり、美里はそのに崩れ落ちそうになった。
「母さん、そこまでしなくても……」
也がおずおずとを挟んだが、の猛烈なに射すくめられると、すぐにを噤んで線を逸らした。
「也、あんたもハッキリさせなさい!」
はにへたり込む美里を見ろし、酷な宣告をした。
「リナちゃんはね、ホテルチェーンの役員の親戚なのよ。リナちゃんが本気でうちの宿を宣伝してくれれば、都会の富裕層がいくらでも流れてくるわ。それに比べて、この女は何よ? も働かせてやってるのに、子供産めず、ただに料理を作ることしかできない役たずじゃないの!」
子供のことまで持ちされ、美里の臓が凍りついた。
妊治療を続けながら、休むもなく旅館の激務をこなしてきた美里の苦しみを、この義母はっていながら、今、最も残酷な形で刃として突きててきたのだ。
「也……」
美里は痛む頬を押さえながら、夫の顔を見げた。
「あなたも、同じ気持ちなの……? 私のは、あなたにとって、ただの役たずだったの……?」
也は、妻の潤んだ瞳を直することができなかった。居悪そうに爪を噛み、ボソボソと聞き取りにくい声で呟いた。
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「……だから、俺は宿の将来を考えてるんだよ。リナちゃんの方が、これからの代にってるのは事実だし……美里が頑なに昔のやり方にこだわるから、母さんだってるんだろ。しは代にわせろよ」
その瞬、美里のので、張り詰めていた最の細い糸が、プツリと音をてて千切れた。
。
朝に起き、夜のまでち働き、料を円ももらえず、「族だから」「この宿の簾を守るためだから」と自分に言い聞かせて耐え忍んできた々のすべてが、を失って崩れっていった。
この男にとって、私は妻ですらなかったのだ。
ただの都のいい無の労働力。代遅れになればいつでも捨てられる、取り替えのきく具に過ぎなかったのだ。
リナが、嘲笑うようなたい線を投げかけてきた。
「はっきり言ってあげるわ。あんたみたいななオバさん、もうこの宿にはらないのよ。さっさとていってくれない?」
も笑を浮かべ、腕を組んだ。
「聞いたでしょう、美さん。もうあんたの居所はどこにもないの。さっさと荷物をまとめて、このからていきなさい!」