"15年無給で働いた若女将を追い出した老舗旅館の末路" 第2話
とスマホと若女将
午、朝の宿泊客たちの見送りが段落したロビーに、違いな甲い笑い声が響き渡った。
帳で昨夜の売伝票を理していた美里が顔をげると、自ドアから入ってきたのは、女将のだった。そしてその隣には、派なブランドもののワンピースを着て、スマートフォンの画面を自撮り棒で掲げた見らぬ若い女が寄り添っていた。
廊にツンとしたきついの匂いが漂う。
「まあ見て、リナちゃん! ここがうちのメインロビーよ。庭の池には錦鯉も泳いでいて、なかなかがあるでしょう?」
「きゃー、すごーい! 超エモい! これ、ストーリーにげたら絶対にバズりますよぉ!」
いヒールをカツカツと鳴らしながら、女はロビーの畳敷きのがり框に同然で踏み込もうとした。
「あ、お客様、申し訳ありません、そちらからはお履物を——」
美里が慌てて駆け寄ると、がサッとにちはだかり、美里のを忌々しそうに払いのけた。
「何をお客さん扱いしてるのよ、美さん! この方はね、今からうちの旅館の『特別プロモーションアドバイザー』としてお招きした、崎リナさんよ!」
「……崎、さん?」
美里がきょとんとしていると、女は自撮り棒を引っ込め、サングラスをのにねげて勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
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「はじめましてぇ。インフルエンサーのリナでーす。SNSの総フォロワー数、万いるんですぅ。今からこのダサくて古臭い旅館を、映える映えスポットに改造してあげるために来てあげました!」
万、という数字を袈裟に振りで示しながら、リナは美里の着ているな着物と、々の仕事で荒れた指先を、のてっぺんから爪先まで値踏みするように見ろした。
「うわぁ……何その着物。昭の政婦さんですか? 超。旅館の顔がそんな貧乏くさい見た目じゃ、若い女の子たちなんて絶対に来てくれませんよぉ」
「リナさん、失礼ですよ。私はこの宿の若女将として——」
「若女将?」
リナが吹きした瞬、背から音がづいてきた。
現れたのは、夫の也だった。仕ての良いスーツを着て、にはリナのきなキャリーケースを事そうに抱えている。
「あ、也さん! 荷物持ってくれてありがとー!」
リナが猫なで声をしながら也の腕にぴったりと体を寄せると、也はのを伸ばし、デレデレとした締まりのない笑顔を浮かべた。
「いいってことよ。かっただろ? リナちゃんのが荒れたら変だからな」
美里の臓が、嫌な音をてて波打った。
美里が朝からい米俵やビールケースを運んでいても、度としてを貸したことなどなかった夫が、初対面のはずの若い女に対して、召使いのように甲斐甲斐しく仕えている。
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「あなた……これは、体どういうことなの?」
美里が震える声を絞りすと、也はわずかにバツの悪そうな顔をしたが、すぐに居直ったように胸を張った。
「どういうことも何もないだろ。これからはSNSの代なんだよ。おみたいに毎厨に籠もって、寄り相にな料理を作ってるだけの宿なんて、もう代遅れなんだ。リナちゃんの名度を使って、ネットでガンガン宣伝して、客層を気に若返らせるんだよ」
「でも、うちには代々通ってくださっている常連様がたくさんいらっしゃいます。その方たちを無して、急に方針を変えるなんて——」
「黙りなさい!」
の鋭い声が、吹き抜けのロビーに響き渡った。
は美里のに歩詰め寄り、その細い指先を美里の先に突きつけた。
「あんたのその古臭い考え方が、この旅館の成を邪魔してきたのよ! で、華がなくて、客に媚びることしか能がない来損ない! も若女将の座に居座りながら、宿の売を倍にすることもできなかった無能のくせに、偉そうに答えするんじゃないわよ!」
「お義母さん、私はただ、お客様との信頼関係を切に守ってきただけで……!」
「信頼関係? 笑わせないでちょうだい!」
は笑を浮かべ、リナの肩を抱き寄せた。
「今から、この宿のしい『若女将』はリナちゃんです。
リナちゃんが表にって、ネットで客を呼び、宿の顔になるのよ。あんたは今から若女将失格。裏方に回って、厨で皿でも洗ってなさい!」
若女将。
その言葉が、美里のから酷に宣告された。
、無で、朝から夜まで働き詰め、誰よりも宿をし、守り続けてきた美里のは、フォロワー万という軽な数字のに、瞬で踏み躙られたのだった。