"昭和35年、上野駅に現れた二人の「ハルコ」" 第12話
漢字でく
子は、みのり堂で働き続けることにした。
で働き始めてひとほど経ったころ、子は仕込みの最に、包丁で指先を浅く切った。千代が当てをし、私は休むよう言ったが、子は「今は料の計算をするです」と帳へ戻ろうとした。千代は、料は逃げないから先に医者へきなさいと叱った。子は初めて、仕事を休んでも料の説を受けられると分かり、し戸惑った顔をした。戻ってきた彼女は、働いた数と取りを自分で帳面に写した。その横に、へ送った額、元に残す額、来買いたい靴の値段をき込んだ。京へ来たとき、彼女は自分のために使うを考えていなかった。靴は、駅で履いてきたものの底がくなっていた。子は「全部をに送らないと、悪い娘だとわれるかもしれません」と言った。千代は「自分ので働くなら、そのの靴も必だよ」と返した。子は笑わなかったが、帳面から靴の値段を消さなかった。
初めての料、千代は雇用通にかれた額と、実際に働いた数を緒に確かめた。寮費と事代を引いた残りを、子本に渡す。子はそので額を数え、へ送る分を封筒に入れた。
母親の返事はかったが、子はらなかった。彼女は、母親が弟の学費だけでなく、父親の仕事具を買い替えるも必としていることをっていた。
広告
ごとに送れる額は変わるだろう。だから子は、度決めた額を約束にせず、料細と緒に毎らせるとにいた。京へ来るは、から求められたを送るだけだとっていた。今は計のことをり、自分の暮らしも続けながら相談するつもりだった。
「全部じゃないのね」
母親からの返事には、そうかれていた。子は、からの細を同封し、弟の学費にいくら必なのか、母とで相談することにした。親子のに、すぐ分かりえる答えが見つかったわけではない。けれど、紹介所のが決めた額ではなく、子のから送られただと伝わった。
数、母親から届いたには、弟が教科を事に使っていることと、父親の具は古でにわせたことがかれていた。子は、もっと送ればよかったのかと度は考えたが、次の料までに自分の費も必だった。彼女は、毎の送額をで相談し、急な費があれば先にらせてもらうことにした。母親がすぐ納得したわけではない。返事の最には「京で働くなら、体を壊さないように」とだけあった。子はそのを何度も読み、初めて、から自分の体を気にかける言葉を受け取った気がした。
子は、富美子と何度かを交わした。姉は、今いる縫製所の所をらせたが、すぐに会う約束はしなかった。
広告
子も、それ以は求めなかった。のには、へ届かなかったと、の名で送られたが残っている。急いで埋めることはできなかった。
記録の写しを受け取ったあと、私はそれを千代と緒に帳へしまった。子の雇用類とは別の封筒に入れ、宛名には「本子」「本富美子」と漢字でいた。つの名を同じ読みだからとつにまとめることは、もうしない。子はその様子を見て、雇用通を自分の机に置いた。にかれた名を確かめるのは、働くが自分の暮らしを確かめる最初の歩なのだと、彼女は言った。
久保田からは、古い与記録の写しが届いた。富美子の名ではなく、子の名で処理された送がいくつもある。全額が戻るかどうかは、まだ決まらない。だが、紹介所は今、雇用通に本の漢字とを記し、与を本に渡したことを確かめると約束した。
私は、みのり堂の雇用通を作り直した。カタカナだけだった名を、子の目ので「本子」とく。隣には、学名、本が選んだ送先を記す欄を作った。き終えると、子は文字ずつ確かめ、最に自分で印を押した。
「これなら、私の通だって分かりますね」
「そうだね。名を違えたまま、働かせるわけにはいかない」
子は、の奥からの盆を持ってきた。まだ、客ので注文を聞く声はさい。それでも、名を呼ばれると、今度は迷わず返事をする。
子は、子がいつをるのかを尋ねなかった。代わりに、子が京へ来てから初めて、姉の話を自分からした。子のにも、姉がいれば京で働くことをどううだろうと考えることがある。子は、姉がどううかを決めつけず、まずを送るよう勧めた。子は、母親へ次のをくとき、京で働きたいとった理由もくことにした。
の終わり、子は富美子と度だけ会うことにした。所は、夜学のだった。私は緒にかなかった。が話したことは、その、子からしだけ聞いた。富美子は、へ戻るとは約束しなかった。子も、姉に帰ってほしいとは言わなかった。
ただ、姉は妹の名で送した理由を、もう度、自分の言葉で説したという。妹が学に残れるとったこと。仲介に任せたこと。自分の名で届かないを、何通もいたこと。子は、その話を聞き終えてから、姉に「今度は私の名を使わないで」と伝えた。
、職業定所からしい求票が届いた。私は、で働く子の条件を確かめるため、千代と緒に担当者のところへった。学の紹介状には、本の希望がかれている。
雇用通には、働く所と料がかれている。が「族のため」と決めるに、本が読んで、分からないことを尋ねるを作る。
それで、すべての違いを防げるとはわない。けれど、名を読み違えたまま誰かの帰郷を記録することは、もうしたくなかった。
翌の、野駅でしい採用者を迎えたとき、私は札に漢字で名をいた。列からりた女が、周囲を見回している。名を呼ぶと、ひとりだけが振り向いた。
そのに届いた雇用通には、漢字の名の横に、本がいたふりがなも添えてあった。私は、字を違えないよう、受け取った女に自分で読んでもらった。彼女が名を読み終えると、私は「ここにいてある条件で、働くかどうかを決めてください」と伝えた。女はを裏返し、族の署名欄を探した。そこは空だった。彼女はし考えてから、まず自分の名だけをいた。
私は、彼女に雇用通を渡した。
「まず、緒に読みましょう。分からないところは、決めるに聞いてください」
女はを受け取り、自分の名を見た。私はその返事を待った。
※本作は昭35の集団就職を背景にした創作です。登物・団体・来事はすべて架空のものです。