"昭和35年、上野駅に現れた二人の「ハルコ」" 第10話
運沿いの灯り
曜の夜、子は約束の所へかけた。千代が「せめて駅までは緒に」と言ったが、子は首を横に振った。姉がひとりで来てと言ったのは、理由があるはずだった。私は、運沿いのをしれて歩くことにした。子が嫌がれば、すぐに引き返すつもりだった。
運のくには、さなが並んでいた。灯ので、子は何度も計を見た。約束のを過ぎても、富美子は現れない。子は帰らず、を胸元に押さえてっていた。
やがて、向こう岸の暗がりから、女がひとり歩いてきた。髪はく、着の袖に糸くずがついている。子はそのを見て、すぐには名を呼ばなかった。
「姉さん」
女はを止めた。
富美子の声は、っていたよりかった。子は、姉の顔を確かめるように見た。最に見送ったころより頬がこけ、目尻に細い線がある。それでも、の甲に残ったさな傷の跡は昔のままだった。子は子どものころ、姉が鍋を運んで傷したとき、そのをたいにつけていた。何も会っていなくても、覚えているものはある。だからこそ、帰ってきてほしいと簡単には言えなかった。
「子。どうして京へ来たの」
「姉さんが帰ったと聞かされた。でも、にはいなかった。私の名で料が送られていたことも、今までらなかった」
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富美子は、子が自分を探していた、何度かをいてはせずにいたと言った。子の名を使って送したことをられれば、妹が族から責められるとった。けれど、連絡を絶つことで子が京へ来るとは考えなかった。彼女は、妹がに残り、学を続けているとい込んでいた。は互いを守ろうとして、相が何を選んだのからないままをねていた。
富美子は、子のにある便箋を見た。私の姿に気づくと、警戒するように歩がった。
「のまで連れてきたの」
「私はしれて待っています」
私はそう伝え、のたもとにった。姉妹の声は、運の音に混じって途切れ途切れに届く。
富美子は、子が自分の名で料を送っていた理由を説した。族は子をへませるがないと言っていた。富美子は、自分が働いた分の部を妹の学費として送れば、子を京へさずに済むとった。仲介は「妹さんの名義でまとめて送れば、族にも分かりやすい」と言った。富美子は、その言葉を信じて署名した。
「でも、母から届いたには、姉さんが帰ったといてあった。私はそのあとからて、京へ来た」
「私が帰ったことになっていたから、紹介所はあなたの分まで働かせたんだとう。名が同じだと、類を見ないは区別しない」
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富美子は、姉妹の名が同じ読みであることを、ずっと利用されてきたとじていた。子は「私は姉さんの代わりじゃない」と言った。
富美子は答えなかった。彼女は、へ帰りたくなかったのではない。けれど、自分の代わりに子が京へされたことをり、帰る顔がなかったのだという。族の借を返すために働いたが、妹の名で送られても、妹の学には使われなかった。その責任を自分だけで背負っていた。
富美子は、へ帰るつもりがなかったわけではないと話した。仕送りが正しく届いているか確かめたかったし、母親の体調も気になっていた。けれど、子の名で送されているとったあと、帰れば妹がのことで責められるとった。紹介所のからは「もう族には帰ったとらせた」と言われ、訂正を頼めば子を巻き込むと止められた。彼女はその説を信じてしまったことを、今も悔やんでいた。
「姉さんが帰ってこなかったせいで、私は京へ来たんじゃない。帰ったことにされたせいで、何も分からなくなったの」
富美子は、すぐに返事をしなかった。運の向こうを貨物が通り、波が岸のに当たった。彼女は、子に渡すために持ってきた封筒をいた。には、古い与細の控えが数枚と、母親宛てにきかけたが入っていた。
封筒の表には、の所が途までかれている。せなかったは、消印もなく、何も彼女の鞄の底にあった。子はそれをに取らず、「読んでもいい?」と尋ねた。富美子はうなずいた。には、妹を学させたいこと、料から送ったが届いているかりたいことがかれていた。最のは空だった。富美子は、何をけば帰ると言えるのか分からず、そのまま封をしないでしまっていたのだという。子は、空を見つめたあと、姉へ封筒を返した。「今度は、すかどうかを姉さんが決めて」
子の言葉に、富美子は初めて妹の顔をまっすぐ見た。
そのとき、運沿いのにのライトが止まった。紹介所の久保田がりてきた。富美子の顔が変わる。
「子、帰って。あのに見つかったら、子さんの仕事までなくなる」
久保田は、ふたりのへづいてきた。