"二十通の辞表" 第7話
の放浪と隠された刃
「子先、ありがとうございます。朝くから皆様にお集まりいただき、より謝申しげます」
私が穏やかに礼して顔をげると、子先は温な笑みを浮かべ、それから再び黒岩たちへと氷のような線を戻した。
「黒岩。貴様らは、蒼井先がでを卒業されてから、この綾瀬楼に戻られるまでの、何をされていたかっておるのか?」
黒岩は震える唇で「学へ……箱入り娘として遊んでいたのでは……」と掠れた声を絞りした。
「馬鹿者が」子先は笑した。「蒼井先はな、学などへはっておられん。をたそので、先代の紹介状すら持たず、たった本の柳刃包丁だけを鞄に詰めて、全国のの現へひとつでび込まれたのだ」
広の空気が、シンと静まり返った。
「の極寒の鮭加で内臓を抜き、築のマグロ解体で血と氷にまみれ、丹波の農でを掘り、鹿児島の肉加で骨をす……。、自らの素性を完全に隠し、材の命がまれる最線でをすすって基礎を叩き込まれたのだ」
板たちの顔が、驚愕でく染まっていく。
「そして歳の、私のを叩かれた。最初は洗いからだ。誰もが音をげて逃げす私の過酷な厨で、度も音を吐かず、誰よりもく勤して汁を研究し、私の横で包丁を握り続けられた。
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……、私が宮晩餐会の料理を務めた際、わしの舌の狂いを正し、最の献をで完成させてくれた腕こそが、ならぬ蒼井先なのだ!」
子先のろに控えていた流料理たちも、誇らしげに頷いた。
「そうだ。俺たちが京都の修業代、番厳しく、そして番確に汁の引き方を教えてくれたのが蒼井さんだ」
「現の苦労もらぬ素だと? 笑わせるな。蒼井先の包丁の速さと正確さは、ここにいる誰よりもだ。材の目利きにかけては、築の競りすら目置く怪物だぞ」
次々とかされる真実に、黒岩はへたり込むように膝をガクガクと震わせた。
「そ、そんな……そんな馬鹿な……! じゃあ、あのおが見せた伝票の指摘は……」
「ええ、すべて分かっていてお聞きしたのですよ、元総料理」
私は黒留袖の袂をすっと払い、徹な瞳で黒岩を見据えた。
「私は、本物の材がどれほどの汗と苦労を経て厨に届くのかを、自分のこので見てきました。だからこそ、あなたが提してくる伝票の数字の歪み、そして届く材の質の悪さが、最初の目で分かったのです」
私は着物の帯のから、冊の学ノートを取りし、黒岩の目のへ突きつけた。
「あなたが『素の曜』と嘲笑っていた私の腕ですが、昨夜、佐藤君とだけで、百分の然真鯛と伊勢老、松茸の処理をすべて完璧に終えました。
子先方には、最終のの確認と盛り付けのお伝いをお願いしているだけです」
「で……百を、晩で……!?」
板のが絶望な声を漏らした。百の懐料理のごしらえを、たったで朝までに終わらせるなど、神業のようなスピードと正確さがなければ絶対に能な芸当だった。
「あなた方が昨叩きつけてくださった枚の辞表は、私にとって願ってもない好でした。、綾瀬楼の板に巣い、を落とし、若い見習いを踏みにじってきた膿を、自らんでし切ってくださったのですから」
私のややかな微笑みに、黒岩の顔から最の傲な仮面が剥ぎ取られ、剥きしの恐怖がその表を支配した。
だが、私の反撃は、料理の腕の披だけで終わるはずがなかった。