"生活費を奪って消えた母、20年後の再会で私が頼んだもの" 第12話
いクロスとのグラス
私が母を案内したのは、駅の層ビルの最階にある級フレンチレストランでした。
エントランスをくぐると、磨きげられた理のと、静かに流れるピアノの調べが客を迎えます。 テーブルには純のリネンクロスが敷かれ、きな窓のには、息を呑むような都会の夜景が面に広がっていました。
周囲の客は、価なスーツを着たビジネスマンや、着飾った裕福そうなカップルばかりでした。 母はを踏み入れた瞬、井のシャンデリアを見げて息を呑みました。
「まあ……すっごいおね。こんな格式のいところ、久しぶりだわ」 母の声には、隠しきれない興奮が滲みていました。
ウェイターに案内されて窓際のテーブル席に着くと、母は背筋を伸ばし、慣れないつきでナプキンを膝のに広げました。 私は母の正面の席に座り、バッグから帳を取りして脇に置きました。
黒い革表のメニューブックが、のに差しされました。 母はページをめくるなり、線を忙しなくらせました。
「どれも美しそうね……。美咲、本当に私が好きなものを頼んでいいの?」 慮するふりをしながらも、母の目には貪欲なが灯っていました。
「ええ、どうぞ。お母さんの好きなものを、好きなだけ選んでください」
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私が穏やかな声で促すと、母の元が緩みました。
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら。 ええと、菜はこのオマール老とキャビアのテリーヌにしようかしら。 お魚料理は真鯛のポワレ、お肉は特選黒毛牛のフィレ肉のローストでお願いするわ」
母は値段の欄を見ながらも、コースので最も価な単品料理を迷うことなく指差していきました。 さらに、ワインリストをいてソムリエを呼び止めました。
「この代物の赤ワインを、グラスでいただけますか? 番いいやつをお願いね」
まるで何かのタガがれたかのように、注文をねる母。 ウェイターが注文を復唱し、最に私の顔を見ました。
「かしこまりました。お連れ様は、何になさいますか?」
私はメニューをくこともせず、ウェイターに向かって静かに微笑みかけました。
「あ、私はだけで結構です」
「……かしこまりました。おをお持ちいたします」 ウェイターはし驚いたように目を瞬かせましたが、プロらしく礼してがっていきました。
母が目を丸くして私を見つめてきました。
「美咲、あなた何もべないの? せっかくこんな素敵なフレンチに来たのに」
「ええ。今はお腹が空いていないので、おだけで分なんです」
「そう? 若いのに変な子ねえ」 母は議そうな顔をしましたが、追及することもなく、すぐに運ばれてきたワイングラスにを伸ばしました。
ルビーのワインをに含み、母は恍惚としたため息を漏らしました。 「やっぱり、いワインはりが違うわね」
その姿を見つめながら、私はテーブルのに置かれたのグラスを、指先でそっと包み込みました。 氷が触れって、チリンとさな音をてました。
かつて、赤提灯の堂で、私のカツ丼を向かい側で見つめていた父の姿が、鮮烈に脳裏に蘇っていました。