みかん小説
本棚

"生活費を奪って消えた母、20年後の再会で私が頼んだもの" 第11話

の再会

それから、という歳が静かに流れていきました。

私は歳になり、都内の堅商社で経理の仕事に就いていました。 をてから奨学を借りて学へ学し、無事に就職を果たして、すでに以が経っていました。

父は歳で勤めた鉄所を定退職しました。 今は郊のさな借で、庭のさな庭菜園を入れしながら、穏やかな暮らしを送っていました。

毎週末になると、私はに揺られて父のを訪れるのが習慣になっていました。 玄関をけると、いつも台所から醤油と姜のいい匂いが漂ってきます。 かつては根を切るのさえ器用だった父は、今では私よりも際よく、料理のような煮物を作って待っていてくれるのです。

母の消息は、あのの以来、完全に途絶えていました。 父も私も、母の方を探そうとしたことは度もありませんでした。 私たちにとって、あのは過の記憶の片隅に置きりにされた、名のないのようなになっていたのです。

そんな、枯らしが吹き抜けるの曜の夕暮れのことでした。

仕事を終えた私が、オフィスビルの回転ドアを抜けて駅へと向かおうとしたときでした。 歩の植え込みのから、柄ながフラリと私のにみてきたのです。

広告

「……あの、美咲さん……美咲よね?」

し掠れた、聞き覚えのない声でした。 私はを止め、怪訝な面持ちでその女性を見つめました。

グレーの古びたウールコートを着た、代半ばほどの女性でした。 髪交じりの髪はし乱れ、目尻や元にはい皺が刻まれていました。 かつてのような派な化粧はなく、全体にくたびれた印象を受けました。

けれど――その切れの目元と、い唇の形を見た瞬。 私の背筋に、氷を滴垂らされたようなたい覚がりました。

「……どちら様でしょうか」 私はを押し殺し、わざとに接するように淡々と問いかけました。

女性は寂しそうに眉をげ、ぎこちない笑みを浮かべました。

「やっぱり、分からなくなっちゃったかしら。……お母さんよ」

ぶりの単語が、たい夜に乗って私のに届きました。 臓が激しく波打つことも、りで震えることもありませんでした。 ただ、え切ったの面のように、私のは静まり返っていました。

「……何の用ですか」

「そんなたいこと言わないでよ。ずっと探してたのよ。 ほら、美咲の会社、親戚のツテで偶然聞いてね。 ……元気だった? お父さんは、元気にしてる?」

矢継ぎに質問をねてくる母の瞳には、どこか落ち着きのないが宿っていました。 も娘を放置していたが、まるで先週会ったばかりの親戚のように振るう図々しさ。

その軽さに、私は胸の奥底でさな嫌悪を覚えました。

母は私のスーツ姿を値踏みするようにからまで眺めると、すり寄るように言いました。

「ねえ、美咲。久しぶりに、どこかで緒にご飯でもべない? 母娘入らずで、積もる話もあるでしょう?」

夕暮れの灯が灯り、を急ぐサラリーマンたちが私たちの横を通り過ぎていきます。 私はしの、無言で母の顔を見つめました。 そして、ゆっくりとをいたのです。

「いいですよ。きましょう」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: