"生活費を奪って消えた母、20年後の再会で私が頼んだもの" 第7話
か目の訪問者
母がていってから、かが過ぎました。
季節は晩から本格なへと移り変わり、吐く息がくなる頃でした。 がの活リズムも、しずつ落ち着きを取り戻していました。
父は相変わらず残業続きで忙しかったですが、休にはで所のい百へき、見切り品のキャベツや参を吟するようになりました。 私も自分で目玉焼きを焼けるようになり、お米を研いで炊飯器のスイッチを押すのが課になっていました。
学で友達から「お母さん、元気?」と聞かれても、「うん、今はちょっとれて暮らしてるの」と、泣かずに答えられるようになっていました。 母のいない活が、私たちの常になりつつあったのです。
そんな、たいがりしきるある曜の昼がりのことでした。
午の補習授業を終えて傘を差して帰宅した私は、玄関のでピタリとを止めました。 見慣れた集宅のドアの脇に、見覚えのある傘がてかけられていたのです。
のに、持ちが細い華奢な傘。 ――母がお気に入りだった、あの赤い傘でした。
臓がドクンと激しくねがりました。 傘の先からは、まだがポタポタと滴り落ちていました。
私はランドセルを背負ったまま、震えるでドアノブを回しました。
広告
鍵はいていました。
「……ただいま」 掠れた声で玄関をけ、居へとを踏み入れた瞬、私の界にひとりの女性の姿がび込んできました。
ダイニングの子に腰掛けていたのは、紛れもなく母でした。
髪はしくなり、派な茶に染められていました。 顔ちには濃いメイクが施されていましたが、頬は以よりもし痩せこけて見えました。 着ているコートは、見たこともない質なウールのコートでした。
「……美咲。おかえり」 母は振り返り、困ったように眉尻をげて微笑みました。
その笑顔を見た瞬、私の胸のに、抑えきれないいが込みげてきました。 やっぱり帰ってきてくれたんだ。あの言葉通り、用事が終わって戻ってきてくれたんだ。 私が「お母さん!」と駆け寄ろうとした、その刹でした。
私の線が、母の元に置かれたきな黒いスポーツバッグと、そのに無造作に放りされた【見らぬ男物の革ジャン】を捉えたのです。
煙のい匂いと、嗅いだこともないっぽいの匂いが、狭い居にち込めていました。 父の作業着の油の匂いとは、似ても似つかない異質な悪臭でした。
台所では、父が無言でっていました。 薬缶のを止め、湯呑みをつ、お盆に乗せて運んできました。
父の表は、驚くほど静まり返っていました。
鳴るでもなく、取り乱すでもなく、ただの抜け落ちた氷のような目で、母を見つめていました。
母はされたお茶にをつけることもなく、指先でテーブルをとんとんと叩きました。 そして、何気ない世話でもするかのような軽い調で、こう言い放ったのです。
「ちょっと今、入り用でさ。のお、もうし用ててほしいのよ」