"生活費を奪って消えた母、20年後の再会で私が頼んだもの" 第3話
父の震える腕
父のが止まりました。
引きしのには、何つ残っていませんでした。 く照らされた裸球のので、空っぽの底板だけが虚しくっていました。
父はったまま、その引きしをじっと見つめていました。 秒、秒、秒。 父のきな背は、まるでの彫刻のようにピクリともきませんでした。
「……お父さん」
私の掠れた声に、父の肩がわずかに揺れました。
「お母さん、朝にていったよ」
私はようやく、それだけをにすることができました。
父は引きしを閉めようとはしませんでした。 空っぽの空を見つめたまま、く、かすれた声で尋ねてきました。
「……どこへったか、母さんは何か言ってたか?」
「言わなかった。……引きしのお、ぜんぶ持っていったよ」
言ってしまった瞬、私の目から粒の涙がボロボロとこぼれ落ちました。 母がいなくなったしさよりも、母の犯した罪を自分ので告げしてしまったことへの罪悪で、胸が張り裂けそうだったのです。
「ごめんなさい……私、止められなかったの……ごめんなさい……!」
しゃくりあげる私のに、父がゆっくりと膝をつきました。 作業着の膝が、畳と擦れてかすかな音をてました。
「……美咲、お、見てたのか」
私は涙で濡れた顔で、さく何度も頷きました。 父のきなが伸びてきて、私のさな体をぎゅっと抱きしめました。
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作業着からは、いつもの械油と、削れた鉄の匂いがちっていました。 、たいで汗を流して働いてきた父の匂いでした。
父の胸板は分く、とても温かかった。 けれど――私の背に回された父の腕が、刻みに、激しく震えているのが分かりました。
「……苦労かけるな。ごめんな、美咲」
元で聞こえた父の声は、泣くのを必に耐えているように掠れていました。
「お父さんが、なんとかするから。 美咲のことは、俺が絶対に守るからな。……だから、もう泣くな」
の男のが震えているのを、私は初めてりました。 私は父の作業着に顔を押し当て、声を殺して泣き続けました。
母がどうして私を捨てたのか。 どうして父が汗流して稼いだおを持っていってしまったのか。 学の私には、何つ理解できませんでした。
その夜、父は台所のかりをつけ、蔵庫の扉を何度もけ閉めしました。 母がていったあとの蔵庫に残っていたのは、米びつの底に残ったわずかな米と、しの噌。 そして、さな卵がつと、半分に切られた根だけでした。
「よし、今夜は卵かけご飯にしよう。美咲、卵かけご飯は好きだろ?」
父は振り返り、努めてるい声で笑ってみせました。 けれど、その笑顔の奥にある瞳は、ひどく赤く充血していました。
「うん、好きだよ」
父はお米を丁寧に研ぎ、お鍋でご飯を炊きました。 湯気とともに炊きがったご飯をつの茶碗によそい、父は卵をひとつだけ割りました。 そして、私の茶碗のに、ぽとりと黄い黄を落としてくれたのです。
父は自分の茶碗には卵を入れず、醤油を数滴垂らしただけでした。
「……お父さんの卵は?」
「俺はな、会社の昼飯でゆで卵をつもったんだよ。だからもう分なんだ」
それが嘘か本当か、私には分かりませんでした。 けれど、私はそれ以何も聞かずに、スプーンで卵かけご飯をに運びました。
喉を通るご飯は、なぜだかしだけ塩辛くじられました。