"生活費を奪って消えた母、20年後の再会で私が頼んだもの" 第1話
空になった引きし
母がをていったのは、私が学ののことでした。
そのの朝、台所から聞こえてくるカチャカチャという器の音で、私は目を覚ましました。 いつもよりずっといでした。
平は朝くからへて、夜遅くまで油まみれになって働く父は、まだ奥の部でのように眠っているはずでした。 週に度の休の朝くらい、ゆっくりと寝かせてあげたかったのです。
私は布団をそっと抜けし、音を忍ばせて廊の角から台所をのぞき込みました。 朝が差し込む暗い台所で、母は器棚のにしゃがみ込んでいました。
母は、枚のお皿を聞で丁寧に包んでいました。 普段の卓に並ぶような、欠けのある物のお皿ではありませんでした。 お正やお盆など、親戚が集まる特別なときにだけ戸棚の奥からす、綺麗な柄の皿でした。
元には、見たこともないきな旅鞄がをけて置かれていました。
「……お母さん、どこかくの?」
私がわず声をかけると、母の背がビクッとねがりました。 聞を握ったまま、母はゆっくりと私の方を振り返りました。
「……美咲(みさき)。起きてたの」
「うん。どこかおかけするの?」
母はほんの瞬だけ困ったように眉をげましたが、すぐに元に笑みを浮かべました。
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「ちょっと、くへ用事があってね。すぐに帰ってくるから、気にしなくていいのよ」
母はそう言って優しく笑いかけました。 けれど、幼い私にも、その笑顔がいつもの母のものとは違っていることがすぐに分かりました。 元は笑っているのに、目だけがまったく笑っていなかったのです。
「お父さんも緒にくの?」
「違うわよ。これは、の用事だから」
母はく鞄のファスナーを閉めると、ちがって私の元へ歩み寄ってきました。 そして、私の肩にそっとを置きました。
「朝ご飯は蔵庫に入ってるからね。お父さんが起きたら、温めてもらいなさい」
「うん……」
私はさく頷きました。 けれど、胸のにはたい疑問が渦巻いていました。 用事にくだけなのに、なぜ切なお皿まで持っていくのか。 なぜそんなにきな荷物が必なのか。
母は靴を履くために玄関へ向かう途、ふとを止めました。 そして、居のテレビ台の引きしのにったのです。
そこには、毎の料に父が持ち帰り、綺麗に仕分けして入れておく活費の封筒がありました。 費、気代、ガス代、そして私の学の費や教材費。 父がか、額に汗して稼いできた切なおでした。
母は引きしをスーッと引きしました。 を確かめるように線を落とすと、迷うことなく、そこにあった封筒をすべてにしたのです。
そして、旅鞄のポケットへと滑り込ませました。