"義母の老人ホーム代120万円を勝手に約束した夫" 第5話
会社の代表話と破られた聖域
毎万円の送が始まってが過ぎた頃、義母の態度からは「申し訳ない」「助かる」という殊勝な言葉が完全に消えっていた。
団に呼びされるたび、幸子さんのからびすのは、所の友たちとった贅沢なランチや買い物の自話ばかりだった。
「先週ね、戸塚さんたちと駅のホテルのレストランへってきたのよ。ランチで千円もするんだけど、たまの贅沢くらいいいじゃない? あとね、美容院も変えたの。座に本があるサロンの支で、カットだけで千円もするのよ」
見せつけられたのは、デパートの包みからされたばかりの、淡いクリームのしいスプリングコートだった。値札は見えなかったが、仕ての良さからして数万円はらない代物だとすぐに分かった。
義母の万円に、私の料からる万円。
計万円の収入は、切り詰めた活を支えるためではなく、義母が見栄を張り、優雅な老を演するための遊興費へと完全に化けていたのだ。
ある、義母から「膝が痛むから、代わりに通帳の記帳をしてきてちょうだい」と頼まれ、団くの信へった。
械から戻ってきた義母の通帳をいた瞬、私の目にび込んできたのは、毎に規則正しく印字された振込元の名義だった。
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『ミヤベ ユイ 70,000』
送元の名義は、座の持ち主である私の名がそのまま印字される。
幸子さんは毎、この通帳をき、おを振り込んでいるのが息子の翔太ではなく、嫁である私自だという事実を、その目でしっかりと確認していたのだ。
通帳を渡すと、幸子さんはそのページを指先でなぞりながら、満そうに頷いた。
「うん、今もちゃんと入ってるわね。……でもねぇ結さん、最は物価もがってるでしょう? 万円じゃ、ちょっと細くなってきたのよね」
棚のには、見覚えのない名ブランドの革のハンドバッグが無造作に置かれていた。
誰の血と汗で稼いだおなのかを百も承ので、このはさらに求を釣りげようとしている。背筋にたいものがったが、私は聞こえないふりをしてそのをちった。
そして、私の堪忍袋の緒を決定に引きちぎる事件が起きた。
婚に至るののことだ。
その、私の勤めるメディカルの本社では、午からな製品の販売戦略会議がかれていた。役員や営業課、主な営業担当者が会議に集まり、私もプロジェクターのにって、スライドを操作しながら説をっていた。
張り詰めた空気の、をし回った頃、会議のろのドアが控えめにノックされた。
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輩の女性社員が青ざめた顔で入ってきて、私に向かって招きをしている。
「失礼します……宮部主任、至急のお話が入っておりまして」
課や同僚たちの線が斉に私に突き刺さる、私はマイクを同僚に預け、りで廊へた。
「堀田さん、どうしたの? 顧客の緊急トラブル?」
「いえ……それが、会社の代表番号宛てに、宮部主任のお義母様だと名乗る方からお話がありまして……」
堀田さんは気まずそうに線を泳がせ、声を極限まで潜めた。
「『今のおがまだ振り込まれていないんだけど、どうなっているのか至急確認して折り返しなさい』と、ものすごい剣幕で鳴り込まれまして……」
瞬、私のから血の気がサーッと引いていくのが分かった。
会社の代表番号。
全国の病院や取引先の役たちからの話が々び交う、企業の顔とも言える代表回線に、個の遣いの催促を鳴り込んできたのだ。
会議のドアは半きになっていた。の役員たちに今の言葉が聞こえたかどうかは分からない。けれど、会議に戻った、私は元の資料の数字を度も読み違え、発表は散々な結果に終わった。
会議が終わると、営業課が私のデスクの横にやってきて、静かに言った。
「宮部さん。ご庭に々と事があるのは察するが……代表番号にお絡みの話をかけさせるのは、勘弁してくれよ。
取引先からの信用問題にも関わるからね」
「……変申し訳ありませんでした。度とこのようなことがないよう、徹底いたします」
くをげながら、恥ずかしさとけなさで、顔がを噴くようにかった。
入社以来、営業成績でトップを争い、誰よりも仕事に誇りを持って打ち込んできた私のキャリアが、義母のたった本の浅ましい話によってを塗られたのだ。
昼休み、私は社用の運転席に駆け込み、震える指で幸子さんの携帯を鳴らした。
『あ、結ちゃん! やっと繋がったわ! 携帯に何度かけてもないから、会社に話したのよ。結婚の挨拶のにもらった名刺、取っておいて良かったわぁ』
話の幸子さんは、悪びれる素振りなど微も見せなかった。
『朝番に記帳にったのに、入ってないじゃないの! どうなってるのよ? こっちは今、美容院の予約を入れてるのよ!』
「お義母さん、送は当ですから、の処理によっては午にずれ込むこともあります。それより、なぜ会社の代表番号に話なんてかけてきたんですか!? 事な役員会議の最だったんですよ!」
私が声を荒らげると、幸子さんはで笑い、信じられない逆ギレを返してきた。
『あら、何よその言い方は! 携帯にないあなたが悪いでしょ! 嫁の会社に話して何が悪いのよ!? 体ね、こっちは待たされて迷惑してるのよ!』
嫁の会社。
このにとって、私が誇りを持って築きげてきた仕事も、社会なも、すべて「嫁」という分の付属品に過ぎないのだ。
そのの夜、帰宅した翔太は、玄関にがるなり私を鳴りつけた。
「おい、結! お、昼に母さんに何言ったんだよ! 母さん、泣きながら俺に話してきたぞ。『結ちゃんに鳴られて怖かった』って!」
「翔太、話を聞いて。お母さん、私の会社の代表話に——」
「母さんも焦ってたんだろ! おが入ってないとったらになるのは当たりじゃないか! おが朝番に振り込んでおかないからだろ!」
私の説を遮り、翔太は着を脱ぎ捨ててソファーにふんぞり返った。
「どうして私がそこまで言われなきゃいけないの? 翔太、毎の万円、あなたの半分は度でも入ったことがある!?」
私が通帳を突きつけると、翔太は気まずそうに目を逸らし、すぐにき直ったように声を張りげた。
「結の方が稼いでるんだからいいだろ! 俺の料じゃカツカツなんだよ! 族なんだから、せる奴がせばいいじゃないか!」
族だから。
その言葉は、もはや私を縛り付け、私の財布からを吸いげるための都のいい呪縛でしかなかった。
「……お母さんは、翔太のお母さんでしょ」
「だから何だよ! 母さんはなんだぞ! 結はたいな!」
翔太は吐き捨てるように言い、寝のドアを乱暴に閉めて閉じこもった。
暗いリビングに取り残された私は、テーブルのの緑の通帳を見つめた。
もう、限界だった。
この男と、この義母の底なしの欲に付きっていたら、私のそのものがいつぶされてしまう。
静まり返った部ので、私のに、つの確な輪郭を持った決が宿った。
婚しよう。
この理尽な沼から、私のを自分ので取り戻すのだ、と。