"「一緒に暮らそう」親切な男性に質問すると、顔色が変わった" 第15話
自分の袋を持って
佐藤さんは、しばらく黙ってから、子を引いた。
「分かりました。今は帰ります」
彼はちがり、玄関へ向かった。千鶴は、追いかけなかった。留さんも、私も、何も言わなかった。
玄関には、千鶴が朝、スーパーで買ってきた米の袋が置いてあった。佐藤さんは、その脇を通り過ぎた。いつものように「持ちましょうか」とは言わなかった。
ドアが閉まると、千鶴はそのにったまま、目を伏せた。やがて、頬を涙が伝った。
「千鶴さん」
私が声をかけると、彼女は首を振った。
「うれしかったのよ。誰かに緒に暮らしたいと言われたことが。でも、私はあのに、私のことを見てほしかったのかもしれない。料理を作るじゃなくて、千鶴として」
留さんが、千鶴の肩にを置いた。
「あんなのために泣くことはないよ。あんたの煮物は、あんたがべたいにべさせればいいんだから」
「留さん、ありがとう」
千鶴は、涙を拭いた。
「私、自分で聞けてよかったわ。静子さんが先に断ってくれたからじゃない。ちゃんと、自分で答えを聞いて、自分で決められたから」
私は、千鶴のを握った。
「聞いたのは千鶴さんよ。私は隣に座っていただけ」
健は、ずっと黙っていた。母親を誰かと暮らさせれば自分ができる。その考えが、千鶴を傷つけていたことに気づいたのだろう。
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帰り際、健は千鶴にをげた。
「母さん、ごめん。佐藤さんのことを急かしたのも、母さんのためだとい込んでた。でも、本当は俺がしたかっただけなんだな」
千鶴は、すぐには返事をしなかった。やがて、さく頷いた。
「配してくれるのはうれしいわ。でも、これからは、私がどうしたいのかを聞いてね」
「分かった。これからはに度は帰ってくるよ。話だけじゃなく、顔を見に来る」
「無理はしないで。でも、約束したことは忘れないでね」
健は、母親の顔を見て、もう度頷いた。
の半ば、私はスーパーの帰りで千鶴と並んで歩いた。千鶴は、買い物袋を自分で持っていた。袋のには、米も醤油も入っていたが、彼女はゆっくりと歩いている。
「私ね、誰かに必とされたかったの」
千鶴が言った。
「でも、ご飯を作るとして必とされるのとは違うのね。あの質問をしてよかった」
「そうね。自分が何を望んでいるか、確かめられたもの」
千鶴は、来、留さんと私とで温泉にきたいと言った。若い頃からってみたかった所があるらしい。
「自分のためにきたいところへくの」
「いいですね。温泉なら、帰りのお産はで分けて持ちましょう」
千鶴は笑った。
そのの夕方、留さんがみかんを持って訪ねてきた。
「静子ちゃん、聞いたかい? 佐藤さん、今度は隣町のスーパーで袋を持ってるって。
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私の友達が見たそうだよ」
「そうですか」
「懲りない男だねえ」
私は、留さんに言った。
「もし、そのお友達が佐藤さんに何か言われたら、先につ聞いてみてと伝えてください」
「何て聞くんだい?」
「『緒に暮らしたら、私に何をしてほしいんですか?』って」
留さんは、ぱっと笑った。
「それが番よく効くね。私は聞くに断っちまったけどさ」
その夜、私は仏壇ので帳をいた。
「あなた。今、千鶴さんは自分の袋を持って、笑っていましたよ」
夫の写真を見つめる。
「あなたは私の袋を持ってくれたけれど、その代わりに何かをしてくれなんて、度も言わなかったわね。あれがどれほどありがたいことだったのか、今になってよく分かります」
私は帳を閉じ、の献を考えた。誰かのためではなく、自分がべたいものを作る。そういう暮らしを、千鶴も私も、これから続けていけばいい。