"最後の伝書鳩" 第11話
折り目の裏側
担当者は、展示用の説文に「を救った英雄」とく案をした。責任者は、それをいったん止めた。関自が英雄と呼ばれることを望むかどうか分からず、彼の為をつの言葉に閉じ込めたくなかったからだ。まずはにかれた事実を、そのまま見せることにした。
報告の裏面にある図は、縮尺のある図ではなかった。川の曲がり方、岩壁の割れ目、炭焼きの傾斜が、い線と文字で記されている。若い職員は、救記録と照しながら、尉の隊が実際に通ったをつずつ確認した。
記録の位置は、驚くほど正確だった。関が、図の記号ではなく、自分の目で見た形をいたからだろう。職員は、裏面を複写するだけでなく、報告全体を保するよう提案した。違反を示す表と、を残した裏は、切りせない枚だった。
類の束は、通信所の閉鎖以来、何度か保管所を移されていた。筒は割れ、留めは錆びていたが、油はに巻かれていたため、の報告はほとんど濡れていなかった。
若い職員は、表面にある「無断記載」という赤字を見て、最初は違反事例の資料だとった。裏面をいた、彼は救記録と名をずつ照した。は全員、の名簿に戻っていた。
ただし、は救からかに別の戦闘でくなっていた。
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報告の余には、その名の横にもさな印があった。誰がいたのかは分からない。関が救に記録を見て加えたのか、川原がに確認したのか、資料からは判別できなかった。
責任者は、名の横の印を消さず、そのまま保するよう指示した。のに残された細かな跡も、記録の部だと考えたからだった。
関へ話をかけるに、担当者は当の処分記録も読み直した。そこには、関が「命令にない報告を送った」とだけかれていた。救援が実された理由も、が戻った経緯も、違反をした伍の判断と結びつけては記されていなかった。
話で関が黙った、担当者は催促しなかった。く折り畳まれていたの裏側を読むには、が必だった。
昭、方の旧通信所が取り壊されることになった。
建物には、戦争から残された古い資料や材が保管されていた。理を担当した若い職員は、棚の奥から、湿気で変した類の束を見つけた。
ほとんどは通信記録だった。
そのに、鳩の脚に結ばれていた筒と、折り畳まれた報告用が枚あった。筒は割れていたが、内側のは油に包まれ、文字が残っていた。
職員は、まず報告の表面を読んだ。
部隊番号、退状況、残数。どこにでもある戦報告の枚に見えた。
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欄には「通信伍・関清、無断記載」と赤鉛で記されている。
資料理の責任者は、その名に見覚えがあった。
古い記録には、関が報告を改変したため処分を受けたとある。だが、裏面はい、別の類と貼りついたままだった。剥がすとが破れるおそれがあり、誰もいて確認していなかった。
保担当者がをかけてを分けると、裏面の文字が現れた。
そこには、カヤンの位置と、炭焼きの通り方が細かく記されていた。次に、の名が並んでいる。
ずつ、誤字もなくかれていた。
最に、い文章が添えられていた。
「を確認できずとも、未帰還の名を戦者の数に含めないでください。私は命令にない記載をしました。責任は関清が負います」
記録を読んだ責任者は、古い救記録を取り寄せた。報告が届いた翌、尉が名の救援隊を率いてへ入り、名を全員連れ戻したと記されていた。
救記録の末尾には、川原軍曹の署名があった。
報告は、表だけを写し取られ、裏面の名と文章は公式記録に転載されていなかった。の理で、関の為は「命令違反」とだけ約されていた。
資料理の責任者は、関の所を探した。
古い名簿をたどり、ようやく埼玉のさな自転を見つけた。
話をかけると、関本がた。
「戦の通信記録について、お話があります」
関は、しばらく何も言わなかった。
「伝鳩の報告ですか」
「はい。裏面を確認しました」
受話器の向こうで、さく息を吐く音がした。
「の名が残っていました」
「……そうですか」
「筒も見つかりました。鳥は、たしかに報告を運んでいます」
関は、返事をしなかった。
「記録に残すため、当のことを聞かせていただけませんか」
「私がしたことは、もう記録にあります」
「命令違反のことだけです」
関は、受話器を握ったまま、窓のを見た。庭の隅には、父が使っていた餌箱がまだ残っていた。
「それなら、川原さんに聞いてください。あのたちが帰ってきたことの方が事です」
「川原さんは、昨くなられています」
関は目を閉じた。
責任者は、報告の裏面にかれていた文章を読みげた。最の名まで読み終えると、関はしばらく黙った。
「私は、所をいただけです」
「でも、名もいています」
「数字にしたくなかったんです」
その言葉だけは、当と変わらない声だった。