"母ちゃんへの三千円" 第12話
の空と病の母
急『津軽』が本線をするにつれ、窓の景はから純へとを変えていった。
福島、仙台、盛岡を抜け、岩のい肌が見え始めた頃には、野をてからすでにが経過していた。
夕暮れの午過ぎ、列はようやく終点の青森駅に滑り込んだ。
ドアがいた瞬、頬を切り裂くような気とともに、懐かしいと潮の匂いが肺いっぱいに流れ込んできた。京の埃っぽいとはまるで違う、骨の髄まで凍りつくような故郷の空気だった。
「吉雄兄ちゃん!」
改札をたところで、聞き覚えのあるい声が響いた。
駆け寄ってきたのは、妹のハナエと、まだ学にがったばかりの弟の留吉だった。とも継ぎ接ぎだらけの綿入れ半纏を着て、のを真っ赤にしている。
「ハナエ! 留吉! 母ちゃんは……母ちゃんはどうした!?」
吉雄が肩を掴んで問い詰めると、ハナエは涙で目を潤ませながら、吉雄の袖を引っ張った。
「民病院さいる! くぐべ!」
はの積もった暗いを、転がるようにった。
町のれにある古い造の県病院。消毒液の匂いが充満する暗い廊を抜け、案内された部の奥のベッドへ駆け込む。
い布団のに、さく縮こまるようにして横たわっているがあった。
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「……母ちゃん!」
吉雄がベッドの脇に崩れ落ちるように膝をつくと、布団がわずかにいた。
ゆっくりとかれた目は落ち窪み、頬はこけてをしていた。しかし、吉雄の姿を認めた瞬、その瞳に微かなが宿った。
「……吉雄……? 吉雄だが……?」
掠れた、今にも消え入りそうな声だった。
吉雄は母のやせ細ったを両で包み込んだ。農作業と寒さで荒れ果て、ひび割れた母のは、まるで枯れ枝のように軽かった。
「母ちゃん、俺だ、吉雄だ! 京から戻ってきたぞ!」
「なんで……帰ってきた……。仕事は……どうしたのす……」
母は々しく首を振ろうとした。その目から、粒の涙がこぼれ落ちて枕を濡らす。
病のにいた担当の医師から聞いた話では、母の病名は『急性肺炎』と極度の『過労』だった。
吉雄が京してからの半、母は弟たちの学費や越しの米代を稼ぐため、の農作業に加えて夜なべの藁仕事まで引き受け、眠を削って働き詰めていたのだという。そこへ初のえ込みがなり、田んぼの畦で倒れてそのまま病院へ担ぎ込まれたのだった。
「あと発見が遅れていたら、命が危ないところでした」
医師の言葉が、吉雄の胸にくのしかかった。
病に戻ると、母はし落ち着いたのか、枕元のさな湯呑みからをすすった。
「吉雄……京さ送ってくれた、為替で届いたよ……。
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おが汗流して稼いだだもの、銭も使えねえで、神棚さげて拝んでだんだ……」
「何言ってんだよ、母ちゃん!」
吉雄はたまらず声を荒らげ、胸ポケットから親方から渡された万円の封筒を取りして、母の布団のに置いた。
「使わなきゃ駄目だろ! 俺が仕送りしてんのは、母ちゃんに楽させるためだ! これ、京の親方から預かってきた万円だ! 入院費も薬代も、全部これで払えるから、のことなんか配すんな!」
「いちまんえん……?」
母は目を丸くし、震える指先で封筒に触れた。
「そんな……どうして……」
「親方がな、『お袋さんの顔見て、落ち着いたら戻ってきて体で返せ』って言ってくれたんだ。沢製作所の親方もおかみさんも、俺を本当の息子みたいに事にしてくれてるんだ。だから母ちゃん、頼むから……なないでくれ。しっかり治してくれよ……」
吉雄は母のを額に押し当て、声を殺して泣きじゃくった。
母のたい指先が、吉雄のを器用に、優しく撫でてくれた。
「吉雄……派になったな。……いい親方さんに巡りえて、本当によがった……」
病の窓のでは、音もなくる牡丹が、津軽の夜をく包み込んでいた。